「くっそがっ!」
銃口は既にこちらへ向けられている。距離も近い。
逃げるのは困難――そう判断した瞬間、思考を切り替え、自分は迎撃を選んだ。
詠唱している暇はない。そんな余裕があれば、とっくに蜂の巣だ。
無詠唱で威力を調整する。四割……いや、確実に仕留めるため五割。これ以上は周囲への被害が大きすぎる。
「【火球《フレール》】!」
掌から放たれた火球は、一直線にドローンへと飛翔し――
次の瞬間、背後の壁ごと巻き込んで爆炎を上げた。
轟音と衝撃波。洞窟全体が震える。
「……よし」
とりあえず、一難は去った。
だが、それで終わりではない。
「くっ!」
間髪入れず、機関銃から放たれた弾幕がこちらへ迫る。
このまま直進すれば、確実に蜂の巣だ。
咄嗟に判断し、すぐ隣にあった岩へと再び身を隠す。
「オラオラオラァァ!!」
容赦はない。
岩に身を隠しても、太った男は撃ち続ける。
だが――不幸中の幸いだった。
次に隠れた岩の位置には段差があり、多少岩を削られたとしても、屈んでいれば致命傷は避けられそうだった。恐らく、奴はその構造に気づいていない。
とはいえ、状況が良くなったわけではない。
このまま弾幕で押し切られれば、不利になるのは明らかにこちらだ。
――一度、距離を取るしかない。
呼吸を整え、元来た道へ戻ろうと振り返った、その瞬間。
「ッ?! しまった!?」
通れるはずだった通路が、瓦礫で完全に塞がれていた。
先ほどの爆発で、上部の岩盤が崩れ落ちたらしい。
自分で、自分の退路を塞いでしまった。
……威力を、抑えすぎたか?
いや、ドローンを撃退できたのは事実だ。だが、その代償がこれは――
逃げ道が、ない。
『おい! よくも俺の魔装シリーズ№・1980【
「……っ!」
頭上から声が降ってくる。
顔を上げると、さきほど爆炎に包まれたはずのドローンが、ふらつきながらも飛行を続けていた。完全には撃ち落とせていない。
『おかげで銃器が使えなくなっちまったじゃねーか!』
「くそっ……やり損ねたか!」
どうやら、やせ細った方の男の装備らしい。
武装は破壊できたようだが、索敵用としてはまだ生きている。
上空からこちらの動きが筒抜けになる――それは、致命的だ。
『パット! こいつ段差に隠れてやり過ごそうとしていやがる!』
「……ちっ」
案の定、すぐに状況が共有された。
こうなれば、もはや隠れても意味がない。
再びドローンへ魔法を放とうと手を構えた、その瞬間。
『へっ、同じ手を食らうかよ、馬鹿が!』
ドローンは素早く距離を取り、ジグザグに軌道を変えながら後退していく。
絶妙な機動。これでは狙いが定まらない。
気づけば、魔法の有効射程外にまで離されていた。
――最悪だ。
「はっはっは! それならこのまま、狙える位置まで動けばいい!」
太った男の嗤い声が響く。
「袋の鼠だな、ゴミィ!」
機関銃を撃ち続けながら、じわじわと横移動。
こちらの死角を潰しに来ている。
一方、自分は動けない。
下手に飛び出せば即死。ここに留まれば、いずれ削り殺される。
――詰み、か?
冷や汗が背中を伝う。
このままでは、間違いなく殺《や》られる。
逃げ道はない。援護もない。魔力も無限ではない。
一体、どうすれば――。