転生勇者が死ぬまで10000日   作:慶名 安

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第4章ー36

 「くっそがっ!」

 

 銃口は既にこちらへ向けられている。距離も近い。

 逃げるのは困難――そう判断した瞬間、思考を切り替え、自分は迎撃を選んだ。

 

 詠唱している暇はない。そんな余裕があれば、とっくに蜂の巣だ。

 無詠唱で威力を調整する。四割……いや、確実に仕留めるため五割。これ以上は周囲への被害が大きすぎる。

 

 「【火球《フレール》】!」

 

 掌から放たれた火球は、一直線にドローンへと飛翔し――

 次の瞬間、背後の壁ごと巻き込んで爆炎を上げた。

 

 轟音と衝撃波。洞窟全体が震える。

 

 「……よし」

 

 とりあえず、一難は去った。

 だが、それで終わりではない。

 

 「くっ!」

 

 間髪入れず、機関銃から放たれた弾幕がこちらへ迫る。

 このまま直進すれば、確実に蜂の巣だ。

 

 咄嗟に判断し、すぐ隣にあった岩へと再び身を隠す。

 

 「オラオラオラァァ!!」

 

 容赦はない。

 岩に身を隠しても、太った男は撃ち続ける。

 

 だが――不幸中の幸いだった。

 

 次に隠れた岩の位置には段差があり、多少岩を削られたとしても、屈んでいれば致命傷は避けられそうだった。恐らく、奴はその構造に気づいていない。

 

 とはいえ、状況が良くなったわけではない。

 このまま弾幕で押し切られれば、不利になるのは明らかにこちらだ。

 

 ――一度、距離を取るしかない。

 

 呼吸を整え、元来た道へ戻ろうと振り返った、その瞬間。

 

 「ッ?! しまった!?」

 

 通れるはずだった通路が、瓦礫で完全に塞がれていた。

 先ほどの爆発で、上部の岩盤が崩れ落ちたらしい。

 

 自分で、自分の退路を塞いでしまった。

 

 ……威力を、抑えすぎたか?

 いや、ドローンを撃退できたのは事実だ。だが、その代償がこれは――

 

 逃げ道が、ない。

 

 『おい! よくも俺の魔装シリーズ№・1980【雄蜂(ドローン)】を攻撃しやがったな!』

 

 「……っ!」

 

 頭上から声が降ってくる。

 

 顔を上げると、さきほど爆炎に包まれたはずのドローンが、ふらつきながらも飛行を続けていた。完全には撃ち落とせていない。

 

 『おかげで銃器が使えなくなっちまったじゃねーか!』

 

 「くそっ……やり損ねたか!」

 

 どうやら、やせ細った方の男の装備らしい。

 武装は破壊できたようだが、索敵用としてはまだ生きている。

 

 上空からこちらの動きが筒抜けになる――それは、致命的だ。

 

 『パット! こいつ段差に隠れてやり過ごそうとしていやがる!』

 

 「……ちっ」

 

 案の定、すぐに状況が共有された。

 こうなれば、もはや隠れても意味がない。

 

 再びドローンへ魔法を放とうと手を構えた、その瞬間。

 

 『へっ、同じ手を食らうかよ、馬鹿が!』

 

 ドローンは素早く距離を取り、ジグザグに軌道を変えながら後退していく。

 絶妙な機動。これでは狙いが定まらない。

 

 気づけば、魔法の有効射程外にまで離されていた。

 

 ――最悪だ。

 

 「はっはっは! それならこのまま、狙える位置まで動けばいい!」

 

 太った男の嗤い声が響く。

 

 「袋の鼠だな、ゴミィ!」

 

 機関銃を撃ち続けながら、じわじわと横移動。

 こちらの死角を潰しに来ている。

 

 一方、自分は動けない。

 下手に飛び出せば即死。ここに留まれば、いずれ削り殺される。

 

 ――詰み、か?

 

 冷や汗が背中を伝う。

 

 このままでは、間違いなく殺《や》られる。

 逃げ道はない。援護もない。魔力も無限ではない。

 

 一体、どうすれば――。

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