「ッ!? そんなことをしたら……!」
「『バレるに決まってる』、ってか?」
その言葉を先回りするように、太った男が嘲るような笑みを浮かべる。自分は言葉を飲み込み、歯噛みするしかなかった。
「……」
「はっはっは。バレる可能性など皆無だな。現に今この瞬間も、監視カメラの映像は偽装されている。それでも運営側から何の反応もないということは、向こうが気づいていない証拠だ」
「なに……っ!?」
思わず息を呑む。奴の言葉が事実だとすれば、この場で起きていることは、すでに“記録されていない”も同然ということになる。
「残念だったな、ゴミ。だからここで貴様が死のうと、彼のドローンを使えば事故死に見せかけることも可能なのだ」
「……いくら映像を偽造したとしても、試験が終われば回収に来るはずだ。銃で撃たれた痕跡があれば、流石に――」
「さっきの脱出口のヤツを見ただろ?」
やせ細った男が、ねっとりとした声音で遮る。
「死体の傷跡だって偽造可能なんだよ。時間が経てば解けるが、その頃にはお前の死体は土の中さ!」
「……」
背筋に冷たいものが走る。
どうやらこいつらは、自分が想像していた以上にイカれているらしい。完全犯罪が成立するかどうかなど、もはやどうでもいい。問題はただ一つ――。
こいつらは、本気で自分を殺すつもりだ。
「分かったか? じゃあ……遠慮なく死ねーーーーー!!!!」
「ッ!?」
怒号と同時に、再び機関銃が火を噴いた。轟音が洞窟内に反響し、隠れ蓑にしていた岩はすでに岩とは呼べないほど削られている。破片が飛び散り、屈んでいても安全とは言えない段階まで追い詰められていた。
――まずい。本当に、時間がない。
「くっそ……こうなったら……!」
必死に思考を巡らせ、ひとつの案に辿り着く。
自分は歯を食いしばり、目の前の壁へと左手を突き出した。
「爆ぜる焔よ、火《か》の球《きゅう》として聚合《しゅうごう》し、眼前に移りし標的に猛る一投を撃ちかけん――【火球《フレール》】!」
「んっ?」
『な、なにやってんだアイツ?』
詠唱と同時に、火球が放たれる。
威力は抑えめだ。先ほどの反省を踏まえ、三割程度に留めた。
「もう一発!」
続けざまに、同じ壁へと火球を叩き込む。一発では足りない。まだだ。
「まだだ……!」
さらに一発、もう一発と、ひたすら同じ一点を狙って火球を放ち続ける。焦げたような臭いが漂い始め、白い煙が視界を覆う。喉が焼けるように痛むが、それでも手を止めるわけにはいかなかった。
「『……』」
やがて、火球の轟音が銃声すら掻き消すほどになり、洞窟全体が震え始める。先ほどまで壁として立ちはだかっていた岩肌には、深く大きな穴が穿たれていた。
――いける。あと一撃。
「爆ぜる焔よ、火《か》の球《きゅう》として聚合《しゅうごう》し、眼前に移りし標的に猛る一投を撃ちかけん――【火球《フレール》】!!」
最後の一撃は、出力を六割まで引き上げる。
火球は穴の奥へと吸い込まれ、数秒の静寂の後、爆発音が響いた。遅れて、凄まじい爆風が穴の中から吹き荒れる。
『なっ……なんなんだよコイツ!?』
「……あ、ありえん……!」
「はあ……はあ……」
荒い息を吐きながら、ようやく気づく。
いつの間にか、銃撃は止まっていた。
どうやら奴等は、自分の行動に完全に唖然としているようだ。本来の狙いではなかったが、結果的には時間稼ぎには成功した。
「……ありえん! 自力で道を作った、だと!?」
「はあ……はあ……」
自分の苦肉の策――それは、誰かに用意された逃げ道を探すことではなく、自ら逃げ道を作ることだった。