「はあ……はあ……よしっ!」
火球によって穿たれた新たな通路へと、俺は身を滑り込ませた。
『はっ、そんなことよりパット! あいつ、逃げるつもりだぞ!?』
「ッ!? しまった、私としたことが……!」
二人が揃って呆然としていたおかげで、こちらは難なく中へ入り込めた。向こうも慌てて追ってこようとしているが、太った方――パットと呼ばれている男は、巨大な機関銃を抱えたままでは満足に走れないようだった。
あれほどの重量物だ。重いに決まっているし、取り回しも最悪だろう。そもそも、どうやってあんなものを試験会場まで持ち込んだのか気になるところだが、今はそんなことを考えている場合ではない。
逃げ道とは言ったものの、実際には四、五十メートルほど壁を抉っただけの、ただの袋小路にすぎない。もし奴らがここまで踏み込んできたら、今度こそ蜂の巣にされるだろう。
『くそっ、無駄な抵抗しやがって! 奴は俺が追いかける!!』
「待て! その中に入るな!!」
『ふえっ!?』
ロンドが俺を追うためドローンを送り込もうとした瞬間、パットがそれを制止した。どうやら、状況を理解する頭はあるらしい。
ここは暗く、細い一本道だ。さっきまで奴らがいた開けた場所とは違い、動きは大きく制限される。そんな場所に不用意に追い込めば、こちらとしては迎撃するだけでいい。狭い空間なら、ドローンの撃墜も容易だ。
「ちっ……とことん小賢しい真似をしやがる。ゴミの分際で」
パットの舌打ちが聞こえた。悪いが、これは命懸けだ。小賢しかろうが何だろうが、最後まで足掻かせてもらう。
「……とはいえ、ここからどうするか、だな」
だが、状況そのものは何も好転していない。今の行動は、あくまで時間稼ぎのための苦肉の策だ。むしろ、自分からより悪い状況に入り込んだと言ってもいい。
「はあ……はあ……はっはっは。どうせ無駄な抵抗だ。お前はもう詰んでいる。多少魔力が高いからといって、この状況を覆せると思うな。大人しく出てきた方が、身のためじゃないのか?」
『ぶへへっ。そうだそうだ! 素直に出てくるなら、命までは取らないぞー! だからとっとと出てこいよ!』
「……」
通路の奥へ進みながら、外から聞こえてくる声を無視する。ロンドの言葉など、どう考えても嘘だ。あんな安い挑発に乗るほど、俺は馬鹿じゃない。
「おい、出てこいゴミ! 出てこないなら容赦はしないぞ!」
パットも威圧的に叫ぶが、これも信用に値しない。容赦も何も、あれで撃たれたら無事で済むはずがない。無視だ。とにかく、今は打開策を考えるしかない。
「……ほう。貴様がその態度を貫くなら、次は女の方が無事では済まなくなるぞ?」
「……」
今度は、ミオの名を持ち出してきた。ここにいない彼女を、どうするつもりだというのか。
「貴様を殺し、試験が終わった後であの女を連行する。私を怒らせたことを、骨の髄まで後悔させてやる!」
『ぶへへっ。そりゃあいいな。どうやって後悔させてやろうか?』
「決まっているだろう。裸にひん剥いて、あんなことやこんなことを――」
『ぶへへへへっ! 想像するだけで興奮してきたぞ!』
「……」
なるほど。浅はかにも程がある。そんな真似をすれば、確実に捕まって監獄行きだ。貴族の名に、さらに泥を塗るつもりか。少しは頭を使えと言いたい。
「はっはっはっはっは!」
『ぶへへへへへっ!』
くだらない。あまりの低俗さに、思考が阻害される。
「……」
打開策を考えようとするが、耳障りな笑い声が邪魔をする。
「はっはっはっは……」
『ぶへへへへ……』
うるさい。
「はっはっは……」
『ぶへへへ……』
五月蠅い。
「はっは……」
『ぶへへ……』
……黙れ。
「はっ……」
『ぶへ……』
「……クソ野郎がっ!!」
気づけば、奥歯を噛みしめ、拳を強く握り締めていた。