転生勇者が死ぬまで10000日   作:慶名 安

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第4章ー41

 不思議なことに、胸を焼くような怒りはすでに引いていた。代わりに、氷水を流し込まれたかのような冷静さが、思考の奥底からじわじわと広がっていく。

 まるで自分が自分でないみたいだ。感情だけが切り離され、頭だけが異様な速度で回転している。

 

(考えろ)

 

 この絶体絶命の状況を、どうやって打破する。

 どうすれば、生き延びるだけでなく――あの二人に一泡吹かせることができる?

 

(必ずある。道は)

 

 そう自分に言い聞かせながら、これまでのやり取りを一つ一つ反芻していく。奴らの言動、態度、妙な焦り、やたらと高圧的な振る舞い。そのすべてを繋ぎ合わせた瞬間だった。

 

 「……ふっ、そういうことか」

 

 思わず、喉の奥で小さく笑いが漏れた。

 あまりにも単純で、拍子抜けするほどの答え。気づいた途端、笑い出してしまいそうになるのを必死で堪える。

 

(なるほどな……だから、あそこまで必死だったわけだ)

 

 そのとき、会場全体に無機質なアナウンスが響き渡る。

 

 『報告。只今、一名の脱出を確認。残り受験者は八名となりました。受験者の皆様、引き続き試験を頑張ってください』

 

 時間は確実に進んでいる。奴らと無駄話をしている間にも、次々と合格者が出ているのだ。

 ここまで来たら、どこか一つは必ず奪ってやる。たとえその結果、あの二人が後で仲違いしようと知ったことじゃない。

 

 「……すー……」

 

 肺いっぱいに空気を吸い込み、意識を一点に集中させる。

 やるべきことは決まった。まずは、奴らの足元を崩す。

 

 そして――一言、ぶちかましてやる。

 

 

 

 「おまえら、ひょっとして……学園の試験、落ちたんだろー?!」

 

 

 

 沈黙。

 次の瞬間、外から息を呑む音が重なった。

 

 「『ッ?!』」

 

 大声で放ったその言葉は、確信に満ちていた。

 奴らが魔法学園の試験を受けている理由。それはただ一つ――ソワレル学園の試験に落ちたからだ。

 

 貴族学校であるソワレル学園は、初等部から高等部までの一貫校とはいえ、試験や適性検査が存在する。そこに届かなかった。

 この国で、貴族が学園に通えないというのは、致命的な名誉の失墜を意味する。

 

 だからこそ、魔法学園に縋った。

 もしかしたら、ここから編入できる道があるのかもしれない――そんな淡い期待を抱いて。

 

 すべては推測に過ぎない。確証などない。

 だが――反応が、何よりの証拠だった。

 

 『き、きさま……なぜそれを……』

 

 「ロンド!? 貴様こそ何を言っている! それでは自分たちで認めたようなものではないか!?」

 

 『し、しまった!?』

 

 「……」

 

 思わず無言になる。

 どうやら図星だったらしい。それも、想像以上に深々と。

 

(こいつら……思ってた以上に、頭が弱いな)

 

 見え見えの嘘。自ら掘った墓穴。

 きっとこれまで、家の名と魔装の力だけで好き放題やってきたのだろう。だからこそ、試験に落ちた。納得しかない。

 

 「くっっっそーーー! ゴミの分際で、二度も我々に恥をかかせるとは! 万死に値する!」

 

 『そ、そうだ! パット! あんなゴミ、塵みたいに粉々にしてしまえー!』

 

 怒号と共に、地響きのような足音が近づいてくる。

 荒い呼吸音。殺気。もう交渉の余地はない――最初から、なかったのかもしれないが。

 

 「……ふーっ」

 

 迫りくる気配に神経を尖らせながら、静かに息を吐く。

 左手を前に構え、意識を集中させる。

 

(これが……最後のチャンスだ)

 

 撃たれる前に、必ず決める。

 ――『あの魔法』を。

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