『報告。只今、一名の脱出を確認。残り受験者は七名となりました。受験者の皆様、引き続き試験を頑張ってください』
無機質なアナウンスが洞窟内に響く。その声を背に、荒い息遣いがすぐそこまで迫ってきていた。
「はあ……はあ……覚悟しろよ、ゴミがっ!」
低く濁った声。鼻息交じりの怒号。
パットだ。足音は重く、しかし確実に距離を詰めてきている。
「……」
自分は唇を噛みしめ、壁際で身を潜めたまま動かない。
焦るな。今動けば終わりだ。タイミングを誤れば、確実に蜂の巣にされる。
(姿を捉えた、その瞬間だ)
反撃の合図はただ一つ。
奴の姿を、はっきりと視認した時。
「はあ……はあ……」
荒い呼吸音が近づく。
次の瞬間――洞窟の入口に、わずかに金属の光がちらついた。
機関銃の銃口だ。
「……瞬く光耀よ」
視界の端でそれを確認した瞬間、迷いは消えた。
即座に詠唱を開始する。
「はあ……はあ……はっはっは! 時間切れだ! 今さら土下座しようが泣き叫ぼうが、貴様の死は変わらん!」
勝ち誇った声が響く。
だが、その声はもはや雑音にすぎない。
「我らを照らす道しるべとなりて!」
詠唱を重ねると同時に、奴の全身が視界に入った。
汗だくの顔。機関銃をこちらに向ける両腕。引き金にかかった指。
(間に合う)
そう確信した瞬間、ぎゅっと目を閉じる。
この一直線上――外すはずがない。
「死ねーーーーー!!」
怒号と同時に、引き金が引かれようとした、その刹那。
「【
炸裂するような光が、闇を引き裂いた。
放たれたのは光魔法。
かつてエイシャとの戦闘で放ったものほどの威力ではない。魔力出力は八割ほどに抑えている。
それでも――五十メートルに及ぶ暗い穴の内部を、余すところなく白く染め上げるには十分すぎる光量だった。
「ぐわっ!? ま、眩しい!?」
悲鳴が上がる。
パットは光球を真正面から浴び、反射的に目を閉じながらふらついていた。
当然だ。
暗闇に慣れ切った視界に、あれだけの閃光を叩き込まれたのだ。
網膜が焼き付くような感覚に襲われ、涙が止まらず、前など見えるはずがない。
「よし、今だっ!」
自分は即座に駆け出した。
まだ光の残滓で自分自身の視界も完全ではないが、問題ない。
(魔力感知がある)
奴の位置は、はっきりと把握できている。
穴の出口へ――いや、奴の脇を抜ける。
その一点に向かって、全力で走る。
「どけーーーー!!」
叫びと同時に、体を低く構え、突進する。
「ぐはっ!?」
肘が、確かな手応えと共に腹部へ突き刺さった。
そのまま体当たりする形になり、パットの巨体は機関銃を手放して後方へ吹き飛ぶ。
目を開くと、地面を転がる機関銃と、壁に叩きつけられる奴の姿が見えた。
『パットーーーー!?』
洞窟内に、ロンドの悲鳴が木霊する。
姿が見えなくとも、その声だけで動揺は手に取るように分かった。
「はあ……はあ……ふぅ」
一方、自分は大きく息を吐き、乱れた呼吸を整えていた。
正直、紙一重だった。だが――結果は上々だ。
(最大の脅威は、排除した)
機関銃を持つパットを無力化できた。
それだけで、この状況は一気に好転する。
『き、きさまぁ~~~!?』
遠くで、ロンドがこちらを睨みつけている。
悔しさと恐怖が混じった表情で、唇を噛み、涙まで浮かべていた。
「……あとは、お前だけか」
静かに言い放つ。
『ヒッ?!』
情けない声が返ってくる。
だが、そんなことはもうどうでもいい。
(必ず突破する)
お前らをぶっ飛ばして――
この試験、必ず生き残ってやる。