転生勇者が死ぬまで10000日   作:慶名 安

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第4章ー42

 『報告。只今、一名の脱出を確認。残り受験者は七名となりました。受験者の皆様、引き続き試験を頑張ってください』

 

 無機質なアナウンスが洞窟内に響く。その声を背に、荒い息遣いがすぐそこまで迫ってきていた。

 

 「はあ……はあ……覚悟しろよ、ゴミがっ!」

 

 低く濁った声。鼻息交じりの怒号。

 パットだ。足音は重く、しかし確実に距離を詰めてきている。

 

 「……」

 

 自分は唇を噛みしめ、壁際で身を潜めたまま動かない。

 焦るな。今動けば終わりだ。タイミングを誤れば、確実に蜂の巣にされる。

 

(姿を捉えた、その瞬間だ)

 

 反撃の合図はただ一つ。

 奴の姿を、はっきりと視認した時。

 

 「はあ……はあ……」

 

 荒い呼吸音が近づく。

 次の瞬間――洞窟の入口に、わずかに金属の光がちらついた。

 

 機関銃の銃口だ。

 

 「……瞬く光耀よ」

 

 視界の端でそれを確認した瞬間、迷いは消えた。

 即座に詠唱を開始する。

 

 「はあ……はあ……はっはっは! 時間切れだ! 今さら土下座しようが泣き叫ぼうが、貴様の死は変わらん!」

 

 勝ち誇った声が響く。

 だが、その声はもはや雑音にすぎない。

 

 「我らを照らす道しるべとなりて!」

 

 詠唱を重ねると同時に、奴の全身が視界に入った。

 汗だくの顔。機関銃をこちらに向ける両腕。引き金にかかった指。

 

(間に合う)

 

 そう確信した瞬間、ぎゅっと目を閉じる。

 

 この一直線上――外すはずがない。

 

 「死ねーーーーー!!」

 

 怒号と同時に、引き金が引かれようとした、その刹那。

 

 「【ゆらめく炎の光球(フレア・ライト)】!!」

 

 炸裂するような光が、闇を引き裂いた。

 

 放たれたのは光魔法。

 かつてエイシャとの戦闘で放ったものほどの威力ではない。魔力出力は八割ほどに抑えている。

 それでも――五十メートルに及ぶ暗い穴の内部を、余すところなく白く染め上げるには十分すぎる光量だった。

 

 「ぐわっ!? ま、眩しい!?」

 

 悲鳴が上がる。

 パットは光球を真正面から浴び、反射的に目を閉じながらふらついていた。

 

 当然だ。

 暗闇に慣れ切った視界に、あれだけの閃光を叩き込まれたのだ。

 網膜が焼き付くような感覚に襲われ、涙が止まらず、前など見えるはずがない。

 

 「よし、今だっ!」

 

 自分は即座に駆け出した。

 まだ光の残滓で自分自身の視界も完全ではないが、問題ない。

 

(魔力感知がある)

 

 奴の位置は、はっきりと把握できている。

 

 穴の出口へ――いや、奴の脇を抜ける。

 その一点に向かって、全力で走る。

 

 「どけーーーー!!」

 

 叫びと同時に、体を低く構え、突進する。

 

 「ぐはっ!?」

 

 肘が、確かな手応えと共に腹部へ突き刺さった。

 そのまま体当たりする形になり、パットの巨体は機関銃を手放して後方へ吹き飛ぶ。

 

 目を開くと、地面を転がる機関銃と、壁に叩きつけられる奴の姿が見えた。

 

 『パットーーーー!?』

 

 洞窟内に、ロンドの悲鳴が木霊する。

 姿が見えなくとも、その声だけで動揺は手に取るように分かった。

 

 「はあ……はあ……ふぅ」

 

 一方、自分は大きく息を吐き、乱れた呼吸を整えていた。

 正直、紙一重だった。だが――結果は上々だ。

 

(最大の脅威は、排除した)

 

 機関銃を持つパットを無力化できた。

 それだけで、この状況は一気に好転する。

 

 『き、きさまぁ~~~!?』

 

 遠くで、ロンドがこちらを睨みつけている。

 悔しさと恐怖が混じった表情で、唇を噛み、涙まで浮かべていた。

 

 「……あとは、お前だけか」

 

 静かに言い放つ。

 

 『ヒッ?!』

 

 情けない声が返ってくる。

 だが、そんなことはもうどうでもいい。

 

(必ず突破する)

 

 お前らをぶっ飛ばして――

 この試験、必ず生き残ってやる。

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