『く、くそっ!? あのデブをぶっ飛ばしたぐらいで、いい気になるなよ!?』
強がった叫びが洞窟内に響く。
だが、その言葉とは裏腹に、ロンドの身体は明らかに脱出口の方向へ向いていた。
「ッ!? あいつ……」
視線を向けた瞬間、思わず舌打ちが漏れる。
友人を置き去りにして逃げ出すだけでも十分最低だというのに、捨て台詞まで吐いていくとは。ここまで来ると、もはや感心すらするレベルの腐りっぷりだ。
(どんな育ち方したら、ここまで性根が歪むんだよ)
そんな感想を抱いた直後、またしても無機質な声が洞窟に流れた。
『報告。只今、一名の脱出を確認。残り受験者は六名となりました。受験者の皆様、引き続き試験を頑張ってください』
今日何度目になるかわからないアナウンス。
だが、その数字は確実に減ってきている。
合格枠は、残り六。
このまま放っておけば、あのクソ野郎も運良く合格してしまう可能性がある。
(……それだけは、どうしても気に食わない)
胸の奥に小さな苛立ちが灯る。
だからこそ、自然と口を突いて出たのは――詠唱だった。
「爆ぜる焔よ、火《か》の球《きゅう》として聚合《しゅうごう》し、眼前に移りし標的に猛る一投を撃ちかけん!」
ロンドの背に向けて、魔力を収束させる。
だが、狙いは奴自身ではない。
「【火球《フレール》】!」
『ッ?!』
放たれた火球は、ロンドのすぐ脇を掠め――そのまま脱出口付近の岩壁へと激突した。
威力は半分程度に抑えている。
それでも、洞窟内に響く轟音とともに、爆風と岩の破片が盛大に舞い上がった。
「ぎゃああぁっ!?」
悲鳴が上がる。
ロンドは衝撃に弾かれるように後方へ飛び退き、慌てふためいた声を素で上げていた。どうやら恐怖のあまり、ドローン越しで喋っていることすら忘れてしまったらしい。
(効いてる効いてる)
その様子を見て、内心ほくそ笑む。
そして――またしてもアナウンス。
『報告。只今、一名の脱出を確認。残り受験者は五名となりました。受験者の皆様、引き続き試験を頑張ってください』
「よしっ!」
思わず小さくガッツポーズ。
残りは五枠。アナウンスの間隔が短くなっていることから察するに、もう少し時間を稼げば、他の受験者たちもこの場に集まってくるだろう。
(なら、その前に一仕事だ)
「【脱兎跳躍《ラジャスト》】」
魔法を発動させ、地を蹴る。
百メートルほどあった距離を、わずか数秒で駆け抜けた。
「よし、捕まえた!」
「ひぃっ?! は、離せこの野郎!?」
ロンドの背後に回り込むと同時に、首根っこを掴み上げる。
腕には【部分魔力強化《パージング》】を施しており、その力は常人の比ではない。
掴まれたロンドは必死に暴れ、手足をばたつかせるが、強化された腕力の前では微動だにしなかった。
「おりゃあっ!」
「ぎえええええっ!?」
そのままロンドを持ち上げ、来た方向へ向かって思い切り放り投げる。
「はあ……はあ……っててて……」
息を整えつつ、投げた先を確認した、その瞬間。
「ぎぃええええええええええっ!!」
「んっ?」
視界に入ったのは、ちょうど起き上がろうとしていたパットの姿だった。
腹を押さえ、よろよろと立ち上がったその顔面に――
「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」
「ぶはぁっ!?」
空を飛んできたロンドが、全力で突っ込んだ。
鈍い衝撃音。
二人の顔面が正面衝突し、再び地面に転がる二つの影。
……完璧な軌道だった。
(なるほど)
こうして自分は、
【人間ミサイル】という新たな技を、無事習得したのだった。