転生勇者が死ぬまで10000日   作:慶名 安

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第4章ー43

 『く、くそっ!? あのデブをぶっ飛ばしたぐらいで、いい気になるなよ!?』

 

 強がった叫びが洞窟内に響く。

 だが、その言葉とは裏腹に、ロンドの身体は明らかに脱出口の方向へ向いていた。

 

 「ッ!? あいつ……」

 

 視線を向けた瞬間、思わず舌打ちが漏れる。

 友人を置き去りにして逃げ出すだけでも十分最低だというのに、捨て台詞まで吐いていくとは。ここまで来ると、もはや感心すらするレベルの腐りっぷりだ。

 

(どんな育ち方したら、ここまで性根が歪むんだよ)

 

 そんな感想を抱いた直後、またしても無機質な声が洞窟に流れた。

 

 『報告。只今、一名の脱出を確認。残り受験者は六名となりました。受験者の皆様、引き続き試験を頑張ってください』

 

 今日何度目になるかわからないアナウンス。

 だが、その数字は確実に減ってきている。

 

 合格枠は、残り六。

 このまま放っておけば、あのクソ野郎も運良く合格してしまう可能性がある。

 

(……それだけは、どうしても気に食わない)

 

 胸の奥に小さな苛立ちが灯る。

 だからこそ、自然と口を突いて出たのは――詠唱だった。

 

 「爆ぜる焔よ、火《か》の球《きゅう》として聚合《しゅうごう》し、眼前に移りし標的に猛る一投を撃ちかけん!」

 

 ロンドの背に向けて、魔力を収束させる。

 だが、狙いは奴自身ではない。

 

 「【火球《フレール》】!」

 

 『ッ?!』

 

 放たれた火球は、ロンドのすぐ脇を掠め――そのまま脱出口付近の岩壁へと激突した。

 

 威力は半分程度に抑えている。

 それでも、洞窟内に響く轟音とともに、爆風と岩の破片が盛大に舞い上がった。

 

 「ぎゃああぁっ!?」

 

 悲鳴が上がる。

 ロンドは衝撃に弾かれるように後方へ飛び退き、慌てふためいた声を素で上げていた。どうやら恐怖のあまり、ドローン越しで喋っていることすら忘れてしまったらしい。

 

(効いてる効いてる)

 

 その様子を見て、内心ほくそ笑む。

 

 そして――またしてもアナウンス。

 

 『報告。只今、一名の脱出を確認。残り受験者は五名となりました。受験者の皆様、引き続き試験を頑張ってください』

 

 「よしっ!」

 

 思わず小さくガッツポーズ。

 残りは五枠。アナウンスの間隔が短くなっていることから察するに、もう少し時間を稼げば、他の受験者たちもこの場に集まってくるだろう。

 

(なら、その前に一仕事だ)

 

 「【脱兎跳躍《ラジャスト》】」

 

 魔法を発動させ、地を蹴る。

 百メートルほどあった距離を、わずか数秒で駆け抜けた。

 

 「よし、捕まえた!」

 

 「ひぃっ?! は、離せこの野郎!?」

 

 ロンドの背後に回り込むと同時に、首根っこを掴み上げる。

 腕には【部分魔力強化《パージング》】を施しており、その力は常人の比ではない。

 

 掴まれたロンドは必死に暴れ、手足をばたつかせるが、強化された腕力の前では微動だにしなかった。

 

 「おりゃあっ!」

 

 「ぎえええええっ!?」

 

 そのままロンドを持ち上げ、来た方向へ向かって思い切り放り投げる。

 

 「はあ……はあ……っててて……」

 

 息を整えつつ、投げた先を確認した、その瞬間。

 

 「ぎぃええええええええええっ!!」

 

 「んっ?」

 

 視界に入ったのは、ちょうど起き上がろうとしていたパットの姿だった。

 腹を押さえ、よろよろと立ち上がったその顔面に――

 

 「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」

 

 「ぶはぁっ!?」

 

 空を飛んできたロンドが、全力で突っ込んだ。

 

 鈍い衝撃音。

 二人の顔面が正面衝突し、再び地面に転がる二つの影。

 

 ……完璧な軌道だった。

 

(なるほど)

 

 こうして自分は、

 【人間ミサイル】という新たな技を、無事習得したのだった。

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