転生勇者が死ぬまで10000日   作:慶名 安

13 / 29
第1章ー12

 「『黒《ダー》シャ…ッ?!』」

 

 エイシャが魔法を唱えようとする。

 だが、俺は即座にその身体を八つ裂きにし、発動前に中断させた。

 

 ――やはり。

 

 奴の魔法は、発動前に斬れば止まる。

 最初に受けた攻撃は、あらかじめ設置された罠だったのだろう。

 罠系魔法は事前に仕込み、詠唱で起動する方式。

 つまり、詠唱を許さなければ奴は何もできない。

 

 ここへ来て、頭が冴えてきた。

 

 最初は相手の情報量に押され、分析で後手を踏んだ。

 だが、この魔法を発動してからは違う。

 異様なほど冷静で、世界が澄んで見える。

 

 煉獅子装炎獄誘灰武者。

 本来の力を引き出し、身体は羽のように軽い。

 

 脱兎跳躍と、鎧から噴き出す炎の推進。

 結界内を縦横無尽に駆け回り、エイシャを攪乱する。

 

 どれほど動体視力が優れようと。

 どれほど魔力感知に長けていようと。

 

 今の俺を捉えられる者はいない。

 

 現に、エイシャは追い切れていない。

 詠唱の兆しを見せた瞬間、再び八つ裂きにして沈黙させる。

 

 今の奴は――

 手も足も、魔法すら封じられた的。

 

 この間に、弱点を見抜く。

 

 だが、この魔法は長く持たない。

 大気中の魔力を燃料としている。

 使用中、空気そのものが削られていく。

 

 大気中の魔力は酸素と同義。

 消費し尽くせば、空気は薄れ、やがて窒息死する。

 

 結界内では逃げ場もない。

 使用限度は確実に存在する。

 

 そして――息が苦しくなってきた。

 時間は、残されていない。

 

 エイシャの弱点。

 いくつもの可能性を探り、ひとつの仮説に辿り着く。

 

 コア型魔物。

 

 かつて戦った【死を刈る者《デッド・リーパー》】。

 心臓の代わりに【魔生の魂塊《マイフ・コア》】を持ち、

 それを破壊しない限り、いくら斬っても再生する。

 

 ――あいつも、同類だ。

 

 そうでなければ、あの異常な再生力の説明がつかない。

 

 問題はコアの位置。

 

 死を刈る者は骨格が露出しており、心臓部に巨大なコアがあった。

 だがエイシャは、斬っても手応えが皆無。

 骨格すら感じない。

 

 コアは極小。

 極限まで圧縮され、強固に凝縮されているのか。

 

 ならば――

 全力の一撃で砕くしかない。

 

 「【上限解放《アミリース》・弎《サード》】!!」

 

 さらに解放。

 火力と速度が跳ね上がる。

 

 視界で捉えられずとも、斬撃圏内に入れば両断できる。

 

 エイシャは呆然として、反応が追いつかない。

 その隙に、全身を細かく刻みながらコアを探す。

 

 頭。胸。腹。脚。

 隅々まで斬る。

 だが――手応えがない。

 

 息が詰まる。

 空気が薄い。

 胸が焼けるように苦しい。

 

 どこだ。

 どこに隠した。

 

 斬っても斬っても、空虚。

 

 ――いや。

 

 影だ。

 

 その考えが閃いた瞬間、全てが繋がった。

 

 コアは影の中。

 影なら、いくら本体を斬っても届かない。

 そして、あの一度だけの回避行動――

 影ごと斬られるのを恐れたのだ。

 

 「……そういうことか」

 

 ならば狙うのは、影。

 

 だが無理に狙えば隙が生まれる。

 反撃か、逃走を許す。

 

 自然な流れで。

 悟られず。

 一撃で。

 

 息は限界に近い。

 肺が悲鳴を上げる。

 

 背後。

 死角。

 影へ最短で届く位置。

 

 その瞬間を待つ。

 

 ――来た。

 

 「【上限解放《アミリース》・肆《フォース》】!」

 

 第四段階解放。

 火力、極限へ。

 

 コアの位置がどこであろうと関係ない。

 地面ごと抉り出す。

 

 「はあああああああッ!!!!」

 

 結界を蹴り、急降下。

 地面まで、0.1秒。

 

 振り下ろされた刀はエイシャの身体を貫き、

 そして――影へ。

 

 切先が、ついに触れようとしていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。