転生勇者が死ぬまで10000日   作:慶名 安

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第4章ー44

 『報告。只今、一名の脱出を確認。残り受験者は四名となりました。受験者の皆様、引き続き試験を頑張ってください』

 

 無機質なアナウンスが洞窟内に反響する。

 合格枠は、残り四。

 

(もうじき、ここにも他の受験者が集まってくるはずだ)

 

 正直なところ、それは好都合だった。

 自分としては、あの二人が立て直す前に誰かが来てくれた方が助かる。数が増えれば、流石にこれ以上無茶は出来ないだろう。

 

 「爆ぜる焔よ、火《か》の球《きゅう》として聚合《しゅうごう》し、眼前に移りし――」

 

 人を呼び寄せるついでに、落石で塞がれていた通路を開けておこう。

 そう考え、火球の詠唱を唱え始めた。

 

 今思えば、ここまで派手に魔法を使い続けてきたのだ。

 銃声、爆音、衝撃。洞窟内に響かないはずがない。誰か一人くらい、異変に気づいて様子を見に来ても不思議ではなかった。

 

 ――その考えが、甘かったと気づくのは、次の瞬間だった。

 

 「ッ?!」

 

 試しに魔力感知を広げ、通路の向こうを探った刹那。

 背筋を、氷水で撫でられたかのような感覚が走る。

 

 ……来ている。

 

 確実に、何かがこちらに向かって来ている。

 人影かもしれない、受験者の一人かもしれない。だが――放っている魔力が、明らかにおかしかった。

 

 異質。

 生理的な嫌悪感を伴うほど、歪で重たい魔力。

 

(……魔物? いや、それとも……)

 

 言葉にしようとした思考は、途中で凍りついた。

 あそこに向かって魔法を撃ってはいけない――そんな声なき警告が、本能から突き上げてくる。

 

 撃てば、ただでは済まない。

 理由は分からない。ただ、確信だけがあった。

 

 蛇に睨まれた蛙。

 まさにその状態だった。異様な魔力に当てられ、身体が鉛のように重くなり、呼吸すら浅くなる。

 

 『報告。只今、一名の脱出を確認。残り受験者は三名となりました。受験者の皆様、引き続き試験を頑張ってください』

 

 「……はっ?!」

 

 唐突に流れたアナウンスが、硬直していた意識を引き戻した。

 そうだ、何をやっている。自分はもう、ここまで来ている。

 

(これ以上、誰かと戦う必要なんてない)

 

 脱出口は、すぐそこだ。

 あとは出るだけ。それだけでいい。

 

 「……くっ!!」

 

 しばらく言うことを聞かなかった身体が、ようやく動き出す。

 自分は脱出口へ向かって全力で走り出した。

 

 そのとき、後ろを振り返ってはいけない、と再び本能が告げてくる。

 理由は分からない。ただ従うべきだと、直感が叫んでいた。

 

 脇目も振らず、ひたすら走る。

 

 『報告。只今、一名の脱出を確認。残り受験者は二名となりました。受験者の皆様、引き続き試験を頑張ってください』

 

 アナウンスの内容すら、もう頭に入ってこない。

 ただ、足を止めてはいけない。それだけを考えていた。

 

 脱出口の扉を押し開くと、少し先の地面に、青白く光る魔法陣が浮かび上がっていた。

 どうやら、あれが脱出用の転移陣らしい。

 

 「……」

 

 中へ踏み込むと、背後で扉がゆっくりと閉まり始める。

 その音を聞いた瞬間、張り詰めていた緊張が、ほんの少しだけ緩んだ。

 

 ……だからだろうか。

 不意に、後ろを振り返ってしまった。

 

 あの異質な魔力の正体は、何だったのか。

 怖いもの見たさ――そんな好奇心が、頭をもたげた。

 

 視線の先では、先ほどまで通路を塞いでいた落石が、いつの間にか破壊されていた。

 舞い上がる砂埃の向こうに、薄っすらと人影のようなものが見える。

 

 あれが……魔力の正体?

 

 「……んっ」

 

 目を凝らすが、砂埃のせいで輪郭は掴めない。

 その上、扉は容赦なく閉まり、視界は徐々に狭まっていく。

 

 『報告。只今、一名の脱出を確認。残り受験者は一名となりました。受験者の皆様、引き続き試験を頑張ってください』

 

 結局、その存在が何者だったのか、最後まで分からなかった。

 もやもやとした不安だけを胸に残したまま――自分は、魔法陣の光に包まれ、脱出を果たしたのだった。

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