『報告。只今、一名の脱出を確認。脱出者三十名を確認しました。これにて本試験は終了となります。受験者の皆様、お疲れ様でした』
場違いなほど淡々としたアナウンスが響いた、その直後だった。
「うおっ!?」
次の瞬間、自分はなぜか空中に放り出されていた。
視界がぐるりと回転し、慌てて下を見る。……普通に高い。
反射的に下半身へ部分魔力強化を施し、なんとか着地。膝をついて衝撃を逃がした。
「……あっぶな」
体勢を崩していたら、確実に頭から落ちていた。
というか、そもそもだ。どうして脱出したら上空から落下する仕様なのか。設計者は一度でいいから自分で試してみるべきだと思う。
そんな文句を心の中で垂れ流しつつ、立ち上がったところで違和感に気づいた。
「……アレ?」
試験会場は、たしか緑一色の野原の地下だったはず。
だが、今足元に広がっているのは赤みがかった床。石材だろうか、人工的な質感がはっきりしている。
顔を上げると、どうやらどこかの建物の内部らしい。
周囲には人の姿もあるが、数は少ない。
(……なるほど)
おそらく、合格者だけがここに転送されたのだろう。
そう考えれば、この人数の少なさにも納得がいく。ここにいるのは、皆自分より先に脱出した合格者たちなのだ。
そう思った、そのときだった。
「サダメー!!」
「ッ?! ……ミオ!?」
聞き覚えのある声に名前を呼ばれ、反射的に振り向く。
そこには、こちらへ向かって駆け寄ってくるミオの姿があった。
「はあ……はあ……。さっきから、ずっと探してたんだけど……全然見つからなくて……」
自分の前まで来た彼女は、肩で息をしながら続ける。
「も、もしかして……落ちたのかもしれないって……すごく、不安になっちゃって……」
「お、おお……。いや、まあ、色々あってな。というか、大丈夫か?」
息も絶え絶えな様子に、ひとまず彼女を落ち着かせる。
……ということは、自分が脱出するまで、ずっと探し回ってくれていたのだろうか。
(それはそれで、申し訳ないな……)
そんなこちらの心配など気にする様子もなく、ミオはふっと表情を緩めた。
「で、でも……サダメが受かってて、本当によかった。えへへへ」
「……ミオ」
自分のことのように嬉しそうな笑顔。
そのあまりの純粋さに、思わず言葉に詰まる。
なんだろう、この感じ。
恥ずかしいような、照れくさいような……胸の奥が少しだけ、むず痒い。
「その様子だと、ミオも合格したみたいだな」
「うん。よく分かんないけど、私が一番早かったらしいよ?」
「……えっ?」
一瞬、思考が止まった。
話を聞けば、開始直後に脱出口の争奪戦が起きたらしい。
だが彼女は、風魔法で周囲の受験者たちを一掃。そのままあっさり脱出したのだという。
(……確かに)
広範囲を制圧できる彼女の風魔法は、この試験との相性が抜群だ。
正直、炎魔法で小細工していた自分より、よほど理にかなっている。
改めて、彼女の魔法の才能に感心させられた。
「で、ここってどこなんだ?」
「うーん……私もよく分かんないんだよね。学園の人には『ここで待機してて』って言われただけで」
「全員揃ったら、リーフさんとかから説明があるのかもな」
「えっ? サダメが最後じゃないの?」
「いや、俺じゃない……はずだが……」
その瞬間だった。
「おわわわわわわわわわわわわわわわわわわ……!」
「……ん?」
聞いたことのない絶叫が、どこからともなく降ってくる。
次の瞬間、自分の頭頂部に――
弾力のある、何かが直撃した。
「けどぅっ!?」
視界が一気に潰れ、顔面から床に叩きつけられる。