「いやはや、重ね重ね迷惑を掛けてしまい、誠に申し訳ござらん、サダメ殿」
「いや、うん……俺は本当に気にしてないから。あはは……」
あの騒動のあと、多少なりとも気まずい空気が流れたのは否めなかった。結果として自分はミオと、そして侍口調の彼女――三人で建物内の隅の方へと移動していた。
彼女はその場に正座し、恥ずかしそうに頬を赤らめながら後頭部をさすっている。深く頭を下げる姿は随分と様になっており、先ほどまでの落下騒ぎが嘘のようだった。もっとも、当人も相当恥ずかしい思いをしたのだろう。そう考えると、こちらとしても強く責める気にはなれない。
彼女の名はマヒロ・トーエン。年は十六。日本人を思わせる弥生顔で、切れ長の目と整った鼻筋が印象的だ。長い黒髪は後ろで一つに束ねられ、揺れるポニーテールが所作に合わせて静かに動く。服装は紫を基調とした袴姿で、動きやすさを重視しているのか丈はやや短め。その腰には、日本刀を思わせる刀が下げられていた。
どう見ても「和」を意識した装いだ。口調といい、装備といい、大和撫子という言葉を絵に描いたような少女である。
「にしても、サダメ殿は凄いでござるな。あそこに倒れておった二人、もしやサダメ殿がやったのでござろう?」
「えっ? あ、ああ……うん。まあ、そうだけど……」
「ほほう。物騒な銃器を持っておったようでござるが、一体どのような方法で倒したのでござるか?」
「え、えーっと、それは……」
「よければ今度、拙者と手合わせしてござらぬか?!」
「い、いや、それはちょっと……」
勢いが凄い。
謝罪が終わったかと思えば、今度は目を輝かせてこちらに詰め寄ってくる。その距離感の近さに、思わず一歩引きそうになるほどだ。圧に押されて、質問にまともに答えきれない。
隣にいるミオも完全に圧倒されており、会話に入る隙を見つけられずにいる。悪気がないのは分かるだけに、強く断るのも気が引ける。これはなかなか手強い。
「サダメ殿……?」
「あー、その……『殿』は付けなくていいかな。なんか呼ばれると歯痒いし、同い年なんだから、そこまでかしこまらなくてもいいでしょ?」
「そうでござるか?」
そこにミオが自然と会話に割り込んできた。
「それなら、私もミオでいいよ。これから同じクラスになるかもしれない相手に殿呼びされるのは、ちょっと変な感じだし」
「なるほど……。拙者、少々特殊で厳しい家柄ゆえ、常に相手を敬う気持ちで接するよう教えられておったのでござるが……嫌だと言われてしまっては仕方ないでござるな。以後、お二人の呼び名には気を付けるでござる」
「いや、別に嫌って言ってるわけじゃないんだけどね」
そう言いつつも、殿呼びをやめてもらうことにした。正直、照れくさいのだ。戦国時代に生まれていたなら気にならなかったのかもしれないが、今の感覚ではどうにも落ち着かない。
それにしても、ここまで日本文化を色濃く感じさせる人物は珍しい。侍のような口調、日本刀、和装。自分が生まれるより遥か昔の日本文化だが、それが自然に彼女の中に根付いているように見える。
特殊で厳しい家柄――。
もしかすると、彼女の家系は日本と深い繋がりがあるのかもしれない。先祖が元日本人、という可能性も十分考えられる。
時代は違えど、同じ日本にルーツを持つ者同士。
そう思うと、自然と興味が湧いてきた。
「なあ、マヒロ。お前の家って……」
「皆、遅れてすまない」
その瞬間、聞き慣れた声が割り込む。
振り返ると、そこにはリーフさんの姿があった。