「つい先程まで、試験に受からなかった者達への説明や、ささやかながらエールの言葉を送っていてね。少々時間を食ってしまった。待たせてしまって申し訳ない」
そう言いながら、リーフさんは合格者達の前へとゆっくり歩み寄ってきた。その落ち着いた足取りからは、先ほどまで別の修羅場をくぐってきたであろう疲労は微塵も感じられない。
要するに、不合格者への対応を先に済ませていたため遅れた、ということなのだろう。あれだけの人数がいれば、結果に納得できない者が出てきてもおかしくはない。説得や説明に時間がかかるのは、むしろ当然だ。
……特に、あの二人のようなタイプがいれば尚更だ。
「それでは、改めて」
リーフさんは一度立ち止まり、合格者一人ひとりを見渡した。
「ここに居る者達は、今回の入学試験を見事に突破した者達だ。というわけで諸君――合格おめでとう」
一拍置いてから、リーフさんは拍手を送った。それに釣られるように、周囲に控えていた職員達も一斉に手を叩き始める。
建物の中に、乾いた拍手の音が広がった。
その音を聞いた瞬間、ようやく実感が湧いてきた。
――ああ、本当に受かったんだ。
「君達はこれより、正式に我が学園の生徒の一員となる」
リーフさんの言葉には、不思議と重みがあった。
「さて、今後の予定について説明しよう。この後すぐ、学生証の発行手続きを行ってもらう。いくつか記入事項はあるが、分からない点があれば遠慮なく職員に聞いてくれて構わない。もっとも、そう難しい内容はないだろうから、聞く機会も少ないかもしれないがね」
そう言って、リーフさんは手元にある銅色のプレートを軽く掲げた。それは職員達が身に着けているものと同じ意匠で、学園関係者である証なのだろう。
「学生証は当日中に発行される。今日のうちに必ず受け取っておいてくれ。今後、学園内外で使用する機会が増えるからね」
なるほど。身分証代わりにもなるわけか。
「入学式は二週間後だ。それまでの間に一度家へ戻り、家族へ報告を済ませたり、寮生活に向けた準備を整えたりしてほしい。遠方に住んでいる者については、学園側で馬車を用意する。必要な者は本日中に申し出るように」
そこで一度、リーフさんは言葉を区切った。
「なお、馬車に乗る際には学生証の提示を求められる場合がある。受け取り忘れには十分注意してくれたまえ」
一連の説明を終え、リーフさんは小さく頷いた。
「以上で説明は終わりだ。なにか質問はあるかな?」
――沈黙。
誰一人として手を挙げる者はいなかった。緊張が解けきらない者、安堵に浸っている者、これからの学園生活を想像している者。理由は様々だろうが、皆一様に言葉を発する余裕がなかったのだと思う。
「……よろしい」
リーフさんは満足そうに微笑んだ。
「それでは、これにて説明会を終了する。改めて言わせてもらおう。諸君、合格おめでとう」
そして、少しだけ声の調子を強めて続ける。
「これからは、この学園の生徒として恥ずかしくない行動を心がけてほしい。正直に言って、大変なのはこれからかもしれない。しかし、大きな壁を一つ越えた時、君達は間違いなく過去の自分よりも成長しているはずだ」
その言葉は、激励であり、同時に覚悟を促すものでもあった。
「私達職員一同も、そのためのサポートは惜しまない。だから、目一杯頑張ってくれたまえ」
最後に、リーフさんは大きく一度だけ手を叩いた。
「――では、解散!」
その合図と共に、説明会は幕を閉じた。
直後、職員達が動き出し、合格者達を学生証の発行手続きへと誘導していく。
こうして、自分達の学園生活は、静かに、しかし確実に始まりを告げたのだった。