転生勇者が死ぬまで10000日   作:慶名 安

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第4章ー49

 「お待たせしました。こちらが学生証になります。再発行は可能ですが、場合によっては時間がかかることもありますし、拾った者に悪用される恐れもあります。なるべく紛失しないようご注意ください」

 

 「はい、ありがとうございます」

 

 無事に学生証を受け取り、一安心する。

 学生証はしっかりとした銅板で作られており、表面には名前や学年などの最低限の個人情報が刻まれていた。見た目以上に頑丈で、多少力を加えた程度では曲がる気配もない。さらに簡易的ながら魔法耐性も付与されており、ある程度の威力までなら攻撃魔法を防げるらしい。

 

 胸ポケットに入れておけば、もしかすると防刃の役割くらいは果たしてくれるかもしれない。

 ……まあ、実用性はほぼないだろうが。

 

 「サダメ、終わった?」

 

 「ん? ああ、ちょうど今」

 

 学生証を受け取ったタイミングで、ミオがこちらにやって来た。彼女は両手で自分の学生証を掲げ、これでもかと見せつけてくる。よほど嬉しいのだろう。

 

 自分も嬉しいことは嬉しいが、さすがに彼女ほど無邪気にはなれなかった。

 中身がおっさんだからなのか、それとも単に性格の問題なのかは分からない。ただ、彼女が喜んでいる姿を見ていると、不思議とこちらまで嬉しくなってくる。

 

 ……やっぱり、おっさんだからなのかもしれない。

 

 「サダメー! ミオー!」

 

 「お、マヒロも終わったのか?」

 

 今度はマヒロがこちらへ駆け寄ってきた。片手に学生証を持ち、ぶんぶん振り回しながら満面の笑みを浮かべている。元気が有り余っているというか、エネルギーの塊みたいな子だ。

 

 「うむ! 今から入学式が楽しみでござる!」

 

 「ははは、さすがに気が早いな」

 

 ぴょんぴょん跳ねたり、目を輝かせたりと、とにかく落ち着きがない。

 自分の知っている女子高生って、こんなにきゃぴきゃぴしていただろうか。

 

 「拙者、この高ぶる気持ちを抑えきれぬゆえ、急いで準備をしに家へ帰るでござる!」

 

 「お、おお、そうか。それじゃ――」

 

 「えへへ。また会おうでござる、サダメー!」

 

 「ッ?!」

 

 別れ際、マヒロは勢いのまま自分に抱きついてきた。

 

 ……この子、スキンシップが激しすぎないか?

 初対面で、しかも同い年の異性にここまで距離が近いのは、どう考えても普通じゃない。本人は無意識なのだろうが、かなり危うい性格をしている気がする。

 

 他の男子だったら、間違いなく勘違いしていただろう。

 高校生時代の自分でも、絶対にしていた自信がある。

 

 もっとも、今の自分がドキッとした理由は、彼女の体温よりも周囲の視線だった。

 おっさんの中身を持つ自分からすれば、「女子高生がおっさんに抱きついている」構図にしか見えない。そりゃあ世間体も気になる。

 

 ……それはさておき。

 

 抱きつかれた瞬間、ふと魔力感知を使ってマヒロの魔力を探っていた。

 あの試験中に感じた、異様な魔力。もしかして最後に脱出した彼女のものではないかと思い、確かめてみたのだ。

 

 だが、結果は違った。

 

 彼女の魔力はごく平凡で、あの時のものとは似ても似つかない。見間違えるはずがないほど、質も量もまるで違う。

 

 ……となると、あの魔力は一体何だったのか。

 

 「二人とも、さらばでござるー!!」

 

 「ああ、またな」

 

 「……またね」

 

 気づけばマヒロは遠くまで走り去り、振り返りながら手を振っていた。

 本当に台風みたいな子だった。

 

 「……ッチ」

 

 「ん? 今なんか言った?」

 

 彼女の姿が完全に見えなくなった直後、背後のミオがぼそりと呟いた。

 急に元気がなくなったようにも見えるが――

 

 「サダメの、エッチーーーー!!」

 

 「ぶへっ?!」

 

 次の瞬間、ミオの学生証が自分の頬を直撃した。

 銅板とはいえ金属である。想像以上の衝撃が頬骨に走り、口から血が噴き出す。

 

 ……ああ、なるほど。

 マヒロに抱きつかれて、鼻の下を伸ばしていたと思われたらしい。

 

 いや、仮にそう見えたとして、俺に落ち度はあるのか?

 

 それはともかく、学生証にこんな実用方法があったとは思わなかった。

 流石の一言である。

 

 こうして紆余曲折はあったものの、自分とミオは無事に試験に合格し、晴れてソワレル魔法学園の生徒となった。

 

 ――転生勇者が死ぬまで、残り4112日。

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