「お待たせしました。こちらが学生証になります。再発行は可能ですが、場合によっては時間がかかることもありますし、拾った者に悪用される恐れもあります。なるべく紛失しないようご注意ください」
「はい、ありがとうございます」
無事に学生証を受け取り、一安心する。
学生証はしっかりとした銅板で作られており、表面には名前や学年などの最低限の個人情報が刻まれていた。見た目以上に頑丈で、多少力を加えた程度では曲がる気配もない。さらに簡易的ながら魔法耐性も付与されており、ある程度の威力までなら攻撃魔法を防げるらしい。
胸ポケットに入れておけば、もしかすると防刃の役割くらいは果たしてくれるかもしれない。
……まあ、実用性はほぼないだろうが。
「サダメ、終わった?」
「ん? ああ、ちょうど今」
学生証を受け取ったタイミングで、ミオがこちらにやって来た。彼女は両手で自分の学生証を掲げ、これでもかと見せつけてくる。よほど嬉しいのだろう。
自分も嬉しいことは嬉しいが、さすがに彼女ほど無邪気にはなれなかった。
中身がおっさんだからなのか、それとも単に性格の問題なのかは分からない。ただ、彼女が喜んでいる姿を見ていると、不思議とこちらまで嬉しくなってくる。
……やっぱり、おっさんだからなのかもしれない。
「サダメー! ミオー!」
「お、マヒロも終わったのか?」
今度はマヒロがこちらへ駆け寄ってきた。片手に学生証を持ち、ぶんぶん振り回しながら満面の笑みを浮かべている。元気が有り余っているというか、エネルギーの塊みたいな子だ。
「うむ! 今から入学式が楽しみでござる!」
「ははは、さすがに気が早いな」
ぴょんぴょん跳ねたり、目を輝かせたりと、とにかく落ち着きがない。
自分の知っている女子高生って、こんなにきゃぴきゃぴしていただろうか。
「拙者、この高ぶる気持ちを抑えきれぬゆえ、急いで準備をしに家へ帰るでござる!」
「お、おお、そうか。それじゃ――」
「えへへ。また会おうでござる、サダメー!」
「ッ?!」
別れ際、マヒロは勢いのまま自分に抱きついてきた。
……この子、スキンシップが激しすぎないか?
初対面で、しかも同い年の異性にここまで距離が近いのは、どう考えても普通じゃない。本人は無意識なのだろうが、かなり危うい性格をしている気がする。
他の男子だったら、間違いなく勘違いしていただろう。
高校生時代の自分でも、絶対にしていた自信がある。
もっとも、今の自分がドキッとした理由は、彼女の体温よりも周囲の視線だった。
おっさんの中身を持つ自分からすれば、「女子高生がおっさんに抱きついている」構図にしか見えない。そりゃあ世間体も気になる。
……それはさておき。
抱きつかれた瞬間、ふと魔力感知を使ってマヒロの魔力を探っていた。
あの試験中に感じた、異様な魔力。もしかして最後に脱出した彼女のものではないかと思い、確かめてみたのだ。
だが、結果は違った。
彼女の魔力はごく平凡で、あの時のものとは似ても似つかない。見間違えるはずがないほど、質も量もまるで違う。
……となると、あの魔力は一体何だったのか。
「二人とも、さらばでござるー!!」
「ああ、またな」
「……またね」
気づけばマヒロは遠くまで走り去り、振り返りながら手を振っていた。
本当に台風みたいな子だった。
「……ッチ」
「ん? 今なんか言った?」
彼女の姿が完全に見えなくなった直後、背後のミオがぼそりと呟いた。
急に元気がなくなったようにも見えるが――
「サダメの、エッチーーーー!!」
「ぶへっ?!」
次の瞬間、ミオの学生証が自分の頬を直撃した。
銅板とはいえ金属である。想像以上の衝撃が頬骨に走り、口から血が噴き出す。
……ああ、なるほど。
マヒロに抱きつかれて、鼻の下を伸ばしていたと思われたらしい。
いや、仮にそう見えたとして、俺に落ち度はあるのか?
それはともかく、学生証にこんな実用方法があったとは思わなかった。
流石の一言である。
こうして紆余曲折はあったものの、自分とミオは無事に試験に合格し、晴れてソワレル魔法学園の生徒となった。
――転生勇者が死ぬまで、残り4112日。