転生勇者が死ぬまで10000日   作:慶名 安

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第4章ーおまけ

 これは、名門ソワレル学園の試験当日の朝のことである。

 

 「いよいよ試験の日ですね、神父様」

 

 「うむ。そうだな」

 

 私はエリカ・ヘンリエッタ。クルーシア王国、リーヴ村にある小さな教会でシスターを務めている。

 この教会に仕える人間は、フレッド・ローリエンス神父様と私の二人だけ。決して大きな教会ではないが、静かで、穏やかで、神の御心に満ちた場所だ――少なくとも、私はそう信じている。

 

 私たちは現在、二人の孤児を預かり、四人で慎ましくも温かな生活を送っている。

 

 その二人がここへ来たのは、今から十年ほど前のこと。

 生まれ育った村を魔物に襲われ、すべてを失いかけたところを、通りがかった勇者様に救われたのだという。その後、縁あって隣村にあるこの教会で引き取ることになった。

 

 当時の二人は、身体だけでなく心まで傷ついていた。

 夜になると悪夢にうなされ、ちょっとした物音にも怯え、食事を取ることすらままならなかった日もある。そんな姿を見るたびに胸が締めつけられた。

 

 それでも――時間は、優しく、そして確実に流れていった。

 

 十年の歳月を経て、あの子達は心身ともに立派に成長した。

 今では大人顔負けの判断力と行動力を持ち、頼もしさすら感じさせてくれる存在だ。

 

 そして今日。

 その二人は、名門ソワレル学園の入学試験を受けるため、朝早く教会を発っていった。

 

 今この時間、私と神父様は、朝食を取りながら彼らの無事と合格を祈っている――はずだったのだが。

 

 「……はあ」

 

 思わず、ため息が零れてしまった。

 

 「こらこら、シスター。教会の中でため息をつくなど、神の御心に背いてしまいますよ」

 

 「あっ!? も、申し訳ございません……!」

 

 神父様の穏やかな注意に、私は慌てて背筋を伸ばした。

 しまった。神を信仰する聖域で、しかも修道女である私が、不安をそのまま吐き出してしまうなんて。

 

 もし、このせいであの子達に何かあったら――

 そう考えてしまい、さらに胸が苦しくなる。

 

 これ以上ため息をつかないよう、私は慌てて口元を押さえた。

 

 ……けれど、このままだと一生、口を塞いでいなければならないのでは?

 

 そんな馬鹿げたことを本気で悩んでいた、その時。

 

 「シスター」

 

 「ッ!? ふぁ、ふぁいっ?!」

 

 思わず間の抜けた返事をしてしまい、私は内心で頭を抱えた。

 神父様を見ると、どこか呆れたようで、しかし優しい眼差しを向けておられる。

 

 ……今の私、とんでもなく間抜けに見えているのでは?

 

 顔が一気に熱くなる。

 幸い、この場にいるのが神父様だけなのが救いだった。

 

 「もう、あの子達も十六を迎える年頃だ」

 

 神父様は、穏やかな口調で言葉を続ける。

 

 「私達から見れば、いつまでも幼い子供に思えるかもしれない。しかし、世間から見れば大人の一歩手前だ。これからは、自分自身で考え、選び、行動していかなければならない」

 

 私は黙って、その言葉に耳を傾けた。

 

 「試験に受かろうが、落ちようが、それはあの子達自身の結果だ。そこには責任も伴う。だからこそ、私達が必要以上に気負う必要はないんだよ」

 

 「……神父様……」

 

 胸に、すっと何かが落ちてくる感覚がした。

 きっと神父様は、私の不安も、ため息の理由も、すべてお見通しだったのだろう。

 

 「私達にできることは、ただ信じて待つことだ。帰ってきたら、ご馳走を用意して迎えてあげよう」

 

 「……はい。そうですね」

 

 自然と、心が軽くなるのを感じた。

 

 「さて、朝食も終わりましたし、礼拝に向かいましょう」

 

 「はい!」

 

 私と神父様は、首に下げた十字架にそっと手を添え、二人の無事を祈りながら礼拝堂へと向かった。

 

 今日という日が、あの子達にとって新たな一歩となりますように――。

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