転生勇者が死ぬまで10000日   作:慶名 安

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第4章ーおまけ2

 試験開始から、すでに数分が経過していた。

 

 「むむむっ……」

 

 拙者、マヒロ・トーエンは、今まさに危機に瀕していた。

 

 本日《こんにち》、名門ソワレル魔法学園の入学試験を受けに来たのでござるが、その試験内容は――洞窟内に点在する三十個の脱出口のうち、いずれか一つから脱出せよ、というもの。

 

 名門校と名高い学び舎ゆえ、強者との激闘や魔物との死闘を期待して参加したのだが……。

 

 「まさか、殺生が禁止とは……。これでは拙者、何も出来ぬでござるー!」

 

 今回の試験では、受験者同士の殺害が厳禁とされており、掟を破れば即失格とのこと。

 拙者の武器は、腰に携えた一本の刀。この刀は少々特殊で、扱いを誤れば相手を殺めてしまいかねぬ代物である。

 

 「うぅ……拙者、さっきから走ってばかりでござるよ……」

 

 抜刀が実質的に封じられた以上、隙を見て脱出口へ向かおうにも、受験者の数が多く、簡単には切り抜けられない。様子をうかがっている間に、気づけば他の者に先を越されてしまう。

 

 この試験、拙者にとってはある意味、非常に過酷なものとなっていた。

 

 『報告。只今、一人の脱出を確認。残り受験者は八名となりました。引き続き、試験を頑張ってください』

 

 「うぬぬぬ……! これはマズイでござる! このままでは落ちてしまうでござるー!?」

 

 合格者が次々と現れる中、拙者はただ洞窟内を走り回っているだけ。刀は抜けぬ、脱出口にも辿り着けぬ。

 

 遠方から遥々ここまで来て、刀を抜けぬまま終わるなど、武士の恥。

 せめて一度でいい、誰かと刃を交えたい――たとえそれで落ちたとしても。

 

 「おろ?」

 

 そう思った矢先、前方から轟音とともに、凄まじい爆発音が響いてきた。

 

 「戦っている者が居るのでござるか……?」

 

 ならば、拙者も混ぜて頂きたい。

 

 「急ぐでござる、拙者! この好機、逃すわけにはいかぬ!」

 

 抑えきれぬ闘争心に突き動かされ、音のする方へ全力で駆け出す。爆発音は大きく、距離もそう遠くはないはず。

 

 「おっ、そこに居るでござるな!?」

 

 ほどなくして、目的地らしき場所に辿り着く。

 だが、前方は岩崩れによって道が塞がれていた。

 

 「ならば……」

 

 拙者は足を止めず、刀を抜く構えに入る。

 恐らく、この先に誰かが居る。戦闘が起きたということは、脱出口も近いはず。

 

 「……抜刀」

 

 刀を抜くと同時に、拙者の黒髪と黒い瞳は、緋色へと変化していく。

 岩は斬るより、破壊する方が早い――ならば、この技が最適解。

 

 「【赤鬼】!」

 

 刀身に赤い妖気が纏い、全身に異様な力が漲る。

 

 「はあああぁっ!!」

 

 一振りで岩を叩き割る。

 岩塊は一瞬で砕け散り、洞窟内に激しい砂埃が舞い上がった。

 

 「よしっ!」

 

 無事に突破――したはいいものの。

 

 「むっ……」

 

 砂埃が舞いすぎて、視界が極端に悪い。

 やはり加減を誤ったか。もう少し修行しておくべきだったと、今になって後悔がよぎる。

 

 「ぐぬぬぬ……どこに居るでござるか?」

 

 後悔は後回し。拙者は前方へ走り出す。

 姿も見ぬまま脱出されるなど、絶対に避けたい。

 

 「……ん?」

 

 砂埃を抜けた先、少し離れた場所に脱出口を発見。

 扉はすでに閉まりかけていた。

 

 「ああ、そんなー!?」

 

 心が、折れかける。

 これで合格者は二十九人。残る枠は、あと一つ。

 

 それでも――扉が閉まる、その一瞬。

 

 その者と、目が合った気がした。

 

 緋色の髪。

 拙者の赤鬼のそれより、なお鮮烈な赤。

 

 性別までは分からぬが、鋭い目つきからして男児であろう。確認できたのは、それだけだった。

 

 「……おろ?」

 

 だが、その直後、隣に同じ形の扉があるのを発見する。

 

 「脱出口でござるかー!?」

 

 思わず声が出た。

 まさか、残り一枠がすぐ近くにあるとは。

 

 近くには、倒れ伏した二人の男児。高価そうな服は泥と血に汚れている。

 恐らく、先程の赤髪の者と戦っていたのだろう。

 

 「……すまぬな」

 

 心苦しさを押し殺し、二人が起きる前に脱出口へと駆け出す。

 

 走りながら、あの赤髪の人物のことを思い返す。

 倒れていた者の一人は、物騒な銃器を所持していた。連射型の、凶悪な代物だったはず。

 

 そんな相手を打ち倒したのだ。只者ではない。

 

 道中、不自然な暗い洞窟や、魔力の残滓も見つけた。

 ひょっとすると、あれも彼の仕業なのかもしれない。

 

 「……それが真なら、とんでもない強者でござるな」

 

 気づけば、拙者はその者に強い興味を抱いていた。

 

 会ってみたい。

 そして――手合わせしてみたい。

 

 「……ふふっ。少々、楽しみが出来たでござるな」

 

 そうして拙者は、なんとか試験を突破することに成功したのであった。

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