転生勇者が死ぬまで10000日   作:慶名 安

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第5章ー2

 「年頃の男の子は、素直になれない時期もあるんだ。察してあげなさい」

 

 「す、すいません……」

 

 神父様の穏やかながらも芯のある言葉を受け、エリカさんはようやく自分の肩から手を離した。先ほどまでの勢いが嘘のように、申し訳なさそうに視線を落とし、肩をすくめている。

 

 「サダメも、ごめんなさい。ちょっと押し付けがすぎたわね」

 

 そう前置きした後、エリカさんは不安そうにこちらを見上げてきた。

 

 「でもね……本当にサダメのことを愛してるの。だから……私のこと、嫌いにならないでね?」

 

 その言葉は、冗談でも勢いでもなく、真剣そのものだった。

 

 「う、うん。大丈夫だよ。気にしてないから」

 

 そう答えると、エリカさんの表情は一瞬でぱっと明るくなる。

 

 「ホント!? ああ、サダメ大好きー!!」

 

 「……」

 

 反省はどこへ行ったのか。

 そう思う間もなく、再び強烈な抱擁が飛んできた。頬ずりされ、さらに頬に軽いキスまでされる始末。

 

 ここまで感情を隠さないエリカさんを見るのは初めてだ。

 もしかして何か憑いているのでは……と一瞬本気で疑ってしまった。重たい愛を持った霊とか、そういう類のものが。

 

 「すまないな、サダメ」

 

 「神父様……」

 

 冗談はさておき、エリカさんの愛情を棒立ちで受け止めていると、今度は神父様がこちらに声を掛けてきた。

 

 正直なところ、謝罪よりもこの状況を止めてほしい気持ちの方が強かったが。

 

 「シスターはな、お前たちが試験に行っている間、ずっと無事を祈っていたんだぞ」

 

 「……」

 

 「それだけじゃない。ここ数日のご馳走も、シスターが自分の財産を切り崩して用意してくれたものだ」

 

 「えっ……?」

 

 思わず声が漏れた。

 

 確かに、最近の食事は明らかに豪華だった。いつもはスープとパンが中心だったのに、肉料理が頻繁に並ぶようになっていた。

 

 そう言われて思い返すと、エリカさんの様子がどこかおかしかった気がする。やたら三人で一緒に寝たがったり、風呂に誘ってきたり。風呂に関しては思春期真っ盛りの身として流石に断ったが、ミオも同じく嫌がっていた。

 

 ――あれは、別れが近いことを分かっていたからなのか。

 

 「シスターはお前たちのことを、人一倍愛している」

 

 神父様は続ける。

 

 「そして、かく言う私もだ。お前たちを我が子のように愛している」

 

 「……」

 

 「いいかい、サダメ。どんなことがあろうとも、私たちのその気持ちは変わらない。いつ、どこにいようとも、お前たちのことを思い続けている。それだけは、忘れないでおくれ」

 

 「……はい!」

 

 神父様は優しい笑みを浮かべながら、自分の頭にぽん、と手を置いた。

 大きくて、温かくて、頼もしい手。そのぬくもりに触れると、不思議と胸の奥が落ち着いていく。

 

 この人に頭を撫でられると、心まで守られているような気がする。

 まるで魔法の手だ。

 

 神父様の言葉には、聖職者としての建前ではない、嘘偽りのない本音があった。それが、真っ直ぐに心へと届く。

 

 「そろそろ迎えの時間のようだな」

 

 その言葉とほぼ同時に、村の入口の方から馬車の音が聞こえてきた。

 間違いない。学園行きの馬車だ。

 

 「サダメ、ミオ。行ってらっしゃい」

 

 「「行ってきます!」」

 

 最後の挨拶を交わし、自分とミオはリーヴ村を後にした。

 

 ――この場所は、間違いなく帰る場所だ。

 そう心に刻みながら。

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