転生勇者が死ぬまで10000日   作:慶名 安

14 / 30
第1章ー13

 「ぬうっ?!」

 

 影に切っ先が触れそうになった瞬間、エイシャの影から巨大でどろりとした手が出現し、俺の刀を掴んだ。

 

 また生成系の魔法か? しかし、一体いつ魔法なんて――。

 

 「『惜しかったですね。ですが、貴方がこうすることは私には見えていましたよ』」

 

 「くっ!?」

 

 大きな手に刀をがっしりと掴まれ、力づくで引き抜こうとするが、なかなか抜けない。マズい。このままでは刀が手の中に飲み込まれる。

 

 上限解放を四段階まで行い、力だけならこんな片手の魔法ごときに負けるはずがない。

 だが感触は、まるで底なし沼だ。動かせば動かすほど刀が沈んでいく。かといって動きを止めても、手はじわじわと刀を伝い、こちらへ這い寄ってくる。何をされるかわからない恐怖が背筋を走った。

 

 「ちっ!」

 

 仕方なく刀を手放し、一旦距離を取る。

 業炎刀《ヘルフレード》は業火剣を強化した特別製だ。業火剣なら容易く作れるが、業炎刀はあと一本作れるかどうかという代物。難易度も高く、この状況で再生成している余裕はない。

 

 それに、俺の息もそろそろ限界に近い。動きを止めたせいか、さっきよりも肺が苦しい。

 

 「『どうしました? 貴方のターンはこれで終わりでしょうか?』」

 

 気づけば、バラバラだったエイシャの身体はほとんど元通りになっていた。相変わらず余裕綽々の煽りっぷりだ。

 

 「……なんで魔法が使える。呪文を唱える隙すら与えなかったはずだ」

 

 乱れた呼吸を整えながら問いかける。

 空気は薄いが、まだ耐えられる。それより――いつ、どこで魔法を発動させた?

 

 俺が仕掛ける前に罠を張っていたのか?

 いや、あれだけ高速で動いていたなら、どこかで罠が起動していなければおかしい。

 

 なのに、俺が影を攻撃しようとした瞬間に発動した。

 奴の口振りからして、狙って発動させたとしか思えない。

 

 だとすれば、俺が影を狙う“直前”――。

 だが、あの状況でどうやって魔法を発動させた?

 

 「『さて。いつ魔法を使ったのでしょうね?』」

 

 「……」

 

 エイシャははぐらかすように笑う。本当に語る気がないのか、それとも単なる煽りか。

 

 それより問題はここからだ。

 致し方ないとはいえ、刀を手放したのは痛すぎる。業炎刀がなければ本来の力は引き出せない。その刀は、あの手と共に地面へ沈みつつあった。

 

 諦めて新たに生成するか。

 それとも、奪い返すか。

 

 「……ふう」

 

 結論は後者。

 生成にかかる時間は惜しいし、そんな隙を与えてくれるほど奴は甘くない。

 

 弱点は既に看破した。

 刀を奪ったのも、俺の戦力を削ぐための策だろう。あるいは俺ごと引きずり込む狙いだったかもしれない。

 

 「上限解放《アミリース》・伍《フィフス》!」

 

 「『……まだ抵抗なさる気で?』」

 

 「当たり前だ! こっちは負けられねぇ理由があんだよ!!」

 

 上限を全解放。

 本来ならこの領域に至るまでには相応の慣熟が必要だが、無茶を承知で力を解き放つ。

 

 「ゔっ?!」

 

 さっきまで軽かった身体が、急に鉛のように重くなる。

 膨大な魔力がのしかかり、一瞬、体勢が崩れかけた。

 

 逆効果にも思える。

 だが今必要なのは速さじゃない。

 

 ――あの手から、刀を奪い返す力だ。

 

 「はあ……はあ……いくぞ!」

 

 息を切らしながら、俺はエイシャへ向けて手のひらを突き出した。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。