「……うおー、すっっげー」
村の入り口前に、一際目立つ馬車が停まっていた。
間違いなく学園用の馬車だろう――そう思う反面、あまりの豪奢さに思考が追いつかない。
白く磨き上げられた巨大な荷台は陽光を反射し、装飾の一つ一つにまで手入れが行き届いているのが分かる。そして何より目を引くのは、それを牽いている魔導馬《ソーサ・ホース》だった。
以前乗った学園の馬車で見た個体よりも一回りは大きく、毛並みは驚くほど純白で、汚れ一つ見当たらない。存在感が段違いだ。
――これ、本当に俺たちが乗っていいやつか?
あまりにも自分たちの生活水準とかけ離れた光景に、そう思わずにはいられない。実際、付近を通りかかった村人たちも、足を止めてその馬車を呆然と眺めていた。
「……ねえサダメ。私たち、本当にアレに乗るの?」
隣でミオが小声で囁いてくる。視線は完全に馬車に釘付けだ。
「……う、うん。たぶん」
自分でも歯切れの悪い返事だと分かっていたが、それ以上の確信が持てなかった。
学園行きの馬車である可能性は高い。だが、もしも万が一、偶然通りかかった貴族の馬車だったとしたら――。
想像するだけで胃がキリキリする。
「……と、とりあえず行ってみようぜ」
「……うん」
確認しないことには始まらない。
そう自分に言い聞かせ、緊張を胸に抱えたまま馬車へと近づいていく。
「あ、あのー……」
「んん?」
馬車の横で待機していた御者らしき人物に、恐る恐る声を掛けた。
白いスーツをきっちりと着こなし、体格もかなり良い。表情は穏やかそうではあるが、それでも威圧感は否めない。
「この馬車って……学園行きの馬車で、合ってます?」
精一杯の愛想笑いを浮かべて問いかける。
緊張のせいか、妙に唾が溜まる。
「そうですよ。あっ、ひょっとして――サダメ・レールステンさんと、ミオ・チヤドールさんでお間違いございませんか?」
「は、はい!? そ、そうですけど……」
予想外に丁寧な敬語と、こちらの名前を正確に言い当てられ、思わず声が裏返った。
だが、御者の人は終始にこやかで、こちらを威圧する様子はまるでない。
――よかった。「無礼者!」とか言われなくて本当によかった。
「……あれ?」
一安心したところで、今度は別の疑問が浮かぶ。
「そういえば……なんで俺たちの名前を?」
学園関係者である可能性は高いが、これほど目立つ人物が学園に居ただろうか。
少なくとも試験の日には見覚えがない。顔を見た瞬間に気付いた様子もなかったし、名簿のようなものも持っていない。
――なのに、なぜ分かる?
「それは、中に入れば分かりますよ。さあ、どうぞ」
意味ありげな笑みと共にそう言われ、御者は荷台の扉を開いた。
「……?」
まったく要領を得ないまま、ミオと顔を見合わせ、恐る恐る中へと足を踏み入れる。
「挨拶は、もう済ませたかな?」
「あっ!?」
中に入った瞬間、その答えはすぐに分かった。
「リーフさん!?」
馬車の中、ゆったりとした座席に腰掛けていたのは――ソワレル学園理事長、リーフ・エンドレッドさんだった。
「やあ。ちゃんと会うのは、一ヶ月ぶりぐらいかな?」