「サダメ・レールステン。ミオ・チヤドール。改めて、合格おめでとう」
「あ、ありがとうございます」
「……ど、どうも……」
馬車の中には、妙に居心地の悪い沈黙が流れていた。
そんな空気など意に介さない様子で、リーフさんは柔らかな笑みを浮かべながら祝福の言葉を投げかけてくる。
合格したのは事実だし、嬉しくないわけではない。
だが――なぜ、名門ソワレル学園の理事長自らが迎えに来ているのか。その理由が分からない以上、どうしても素直に喜べない自分がいた。
「おや? どうしたのかな。まだ朝ご飯は食べていないのかい? 今、アメしか持っていないけど……食べる?」
「い、いえ、大丈夫です」
「そうか」
「……」
冗談めいた調子で話しかけてくるリーフさんだが、なぜだろう。
以前会った時よりも、格段に話しづらく感じていた。
当然だ。この人は、名門校の理事長。
その学園に、これから自分たちは通うことになる。失言一つで目を付けられたらどうなるか――そんな考えが頭をよぎり、自然と口数が減ってしまう。
「……試験は、どうだったかな?」
「……はい?」
沈黙を破るように、リーフさんがふいに問いかけてきた。
どうだったか、とは一体何を指しているのだろう。
「毎年ね、試験内容は変えているんだ。今年は少し趣向を変えてみたくてさ。どうだったかな? 受験者である君たちの意見を、直接聞いてみたくてね。遠慮はいらないよ」
どうやら、試験そのものの感想を聞きたいらしい。
今回の内容は初出の形式で、その評価を知りたい――ということか。
嘘をついているようには見えない。
だが相手は理事長だ。正直な意見を言っていいものか、どうしても言葉を選んでしまう。
そんな中、口を開いたのはミオだった。
「……私、たまたま脱出口の近くに居て……皆が本格的に交戦する前だったので、運よく脱出できました」
一度言葉を区切り、彼女はちらりとリーフさんの様子を窺う。
「でも……試験として考えると、ちょっと簡単だった気がします」
意外にも、はっきりとした物言いだった。
正直、自分はあの状況でギリギリ合格できた身だ。
簡単だった、とはとても言えない。
だが、ミオの言いたいことは分かる。
今回の試験は、あまりにも運の要素が強すぎた。
脱出口の位置、受験者の配置――すべてがランダム。そうなれば、実力よりも“引きの強さ”が結果を左右してしまう。
もちろん、争奪戦になる以上、一定以上の実力は必要だ。
だが、それでも公平とは言い切れない。
パットとロンドのことを思い出し、胸の奥が少しだけざわつく。
あいつらも、性格の悪さを発揮しなければ、今頃は合格していたかもしれない。魔装シリーズは確かに厄介だったが、実力そのものが突出していたようには思えなかった。
「そうか。やっぱり不評みたいだね」
ミオの意見を聞いたリーフさんは、どこか楽しそうに笑った。
「教師陣からも、しっかり苦言を呈されてしまったよ。はっはっは」
……教師陣にまで言われているということは、今回の試験内容は、ほぼリーフさんの独断だったのだろう。
「けどね」
そう前置きし、リーフさんは穏やかな声で続ける。
「私は、これで良かったと思っているよ」
「えっ!? な、なんでですか?」
あれほど不評だったというのに、それでも良かったと言い切る。
意味が分からず、思わず声を上げてしまった。
「……そうだね」
リーフさんは少しだけ表情を引き締める。
「折角だ。今回の試験の“目的”について、話しておこうか」
その一言に、馬車の中の空気が、ぴんと張り詰めた。