「……目的、ですか?」
思わずそう問い返すと、リーフさんは小さく頷いた。
試験に何らかの意図があることは分かっていたが、その内情を、しかも受験者である自分達に語ってしまっていいものなのだろうか。そんな疑問が脳裏をよぎる。
「去年ね。この学園から十三名の生徒が姿を消してしまったんだ」
「……十三名?」
「そのうち、三名は――亡くなっている」
「ッ……!?」
それまでの飄々とした態度から一転し、リーフさんは真剣な面持ちで語り始めた。
死者、三名。
以前、彼はこの学園では命を落とす可能性もあると口にしていた。
だが、こうして具体的な数字として突き付けられると、その言葉が決して大袈裟でも、脅しでもなかったのだと、否応なく理解させられる。
「皆、どこに出しても恥ずかしくない、優秀な生徒達だったよ。才能も努力も、申し分なかった。……それでも、度重なるアクシデントに巻き込まれ、結果としてこのような事態になってしまった」
リーフさんは一瞬、視線を伏せる。
「我ながら、心が痛む。理事長でありながら、彼らを守りきれなかったのだからね」
その表情には、確かな後悔と哀愁が滲んでいた。
生徒が三人も亡くなっているのだ。精神的に堪えないはずがない。
「……それで、私は考えたんだ」
顔を上げ、リーフさんは静かに言葉を続ける。
「今、この学園に――いや、この国に本当に必要な人材とは、何なのかをね」
「それが……今回の試験内容に?」
「うん。大いに関係しているよ」
そして、彼は迷いなく言い切った。
「私が辿り着いた答えは――【運】だ」
「……運?」
思わず、聞き返してしまう。
名門と名高いソワレル学園で求められるものが、運。
どうしても腑に落ちない。実力や努力を差し置いてまで、重要視されるものなのだろうか。
「どれほど成績が優秀でも、どれほど努力を重ねても――たった一度の不幸で、すべてが無に帰すことがある」
その言葉に、胸が強く締め付けられた。
「私は、そんな光景を幾度となく見てきた。若者の未来が、理不尽に断たれていく様をね」
リーフさんの声は、静かだが重い。
「これ以上、若い命を摘み取りたくはない。だが同時に、この国は今、停滞の瀬戸際にある。このままでは、衰退の一途を辿るだろう」
「……」
「だから私は決めた。強運に恵まれた人材を、意図的に発掘し、育てることにしたんだ」
その理屈は、どこか歪んでいるようにも思える。
だが同時に、理解できてしまう自分もいた。
どれだけ優れた人物でも、死ぬ時は突然だ。
抗えない偶然が、すべてを奪っていく。
――父の姿が、脳裏に浮かんだ。
父も、間違いなく優秀な人材だった。
だが、ただ“偶然”あの魔物に遭遇してしまった。それだけで命を落とした。
もし、父にもう少し運があったなら。
そう考えずにはいられない。
「運の良し悪しは、どう足掻いても変えられない」
リーフさんは続ける。
「ならば、こう考えたらどうだろう? 最初から運の良い者を、徹底的に鍛え上げたら――どうなると思う?」
「……?」
突然の問いに、言葉を失う。
話が見えなくなり、思考が追いつかない。
「不運にさえ打ち勝つ、真の意味での最強が生まれる」
リーフさんは、はっきりと宣言した。
「それが、私の目的だよ。――新たな勇者を、生み出すことがね」