転生勇者が死ぬまで10000日   作:慶名 安

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第5章ー6

 「ッ?! 新たな、勇者……?!」

 

 思わず声が裏返る。

 勇者を生み出す――そんな言葉が、これほど軽やかに口にされていいはずがない。

 

 「ここ数年は、勇者の活躍によって魔物の脅威は大きく後退していた。だがね、去年あたりから再びその数が増え始めている」

 

 リーフさんは静かに語る。

 

 「その影響もあってか、各地でアクシデントが頻発している。学園の生徒が巻き込まれる件も増えた。由々しき事態だよ」

 

 淡々とした口調だが、その奥に焦燥が滲んでいる。

 

 「だから私は、新たな勇者を見出さねばならないと考えた。しかし従来通りの選抜方法では、勇者の重責を担える逸材は現れない。それに……」

 

 そこで言葉が途切れる。

 

 「……それに?」

 

 問い返すと、リーフさんは一瞬、視線を落とした。

 どこか言い淀むような、慎重な表情。

 

 「前任の勇者も、不運な目に遭ってしまったからね」

 

 「ッ……!?」

 

 心臓が強く跳ねる。

 

 不運な目に遭った?

 それはつまり――。

 

 「リーフさんは……勇者がどうなったか、知っているんですか?」

 

 自分でも驚くほど、声が低くなっていた。

 

 十年前。

 あの日を最後に、勇者は姿を消した。誰も行方を知らない。少なくとも、自分はそう思っていた。

 

 だが、今の口ぶりは明らかに違う。

 この人は、何かを知っている。

 

 「……」

 

 沈黙。

 

 わずか数秒が、やけに長く感じられる。

 

 「私が知っていることは多くない。だから、私の口からは語れないんだ」

 

 「そ、そんな……」

 

 はぐらかされた。

 

 だが、知らないのではない。

 “語れない”と言ったのだ。

 

 つまり、語れない事情があるということ。

 

 胸の奥がざわつく。

 嫌な想像が頭をよぎる。

 

 まさか――もう。

 

 だが、それ以上の言葉は続かない。

 

 十年経った。

 どんな結末であれ、受け止める覚悟はできている。そう思っていた。

 

 それでも、真実を拒まれると、こんなにも苦しいのか。

 

 無言のまま視線で訴えるが、リーフさんは静かに首を振った。

 

 「……いずれ、分かる時が来るよ」

 

 「え? どういう意味ですか?」

 

 「それも、いずれ分かる」

 

 それ以上は語らないという、明確な意思表示だった。

 

 気になる部分だけを残し、核心は伏せられたまま。

 余計に不安が募る。

 

 だが、リーフさんは空気を切り替えるように、軽く手を打った。

 

 「ともかく、だ。私は勇者の資質を探している。だが今の時代に必要なのは、高い魔力量や戦闘能力だけではない。そこに“強運”が加わって初めて、真に生き残れる存在になる」

 

 「……」

 

 「だから今年の試験は、意図的に運要素を強くした。そういう話だよ」

 

 半ば強引に話を締められた形だが、理屈は理解できる。

 

 魔力が高く、実力があり、なおかつ強運。

 確かにそんな人物がいれば、伝説級の勇者になれるだろう。

 

 ――まるで物語の主人公のような存在だ。

 

 だが。

 

 「……そんな人、本当にいるんでしょうか?」

 

 口からこぼれたのは、率直な疑問だった。

 

 実力者はいるだろう。

 天才もいるだろう。

 

 だが、不運すら退ける強運の持ち主など、そう簡単に存在するとは思えない。

 

 何十年に一人。

 いや、何百年、何千年に一人の逸材ではないのか。

 

 すると、リーフさんは不意に目を細めた。

 

 「おや? 自覚はないタイプかな?」

 

 「……?」

 

 次の瞬間。

 

 彼はまっすぐにこちらを指差した。

 

 「私は、君にその資質を感じているんだけどね」

 

 空気が、止まった。

 

 「……え?」

 

 思考が追いつかない。

 

 今、何と言った?

 

 自分に――勇者の資質がある、と?

 

 心臓の鼓動がうるさい。

 冗談だと言ってほしいのに、リーフさんの表情はどこまでも真剣だった。

 

 まるで、確信しているかのように。

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