「ッ?! 新たな、勇者……?!」
思わず声が裏返る。
勇者を生み出す――そんな言葉が、これほど軽やかに口にされていいはずがない。
「ここ数年は、勇者の活躍によって魔物の脅威は大きく後退していた。だがね、去年あたりから再びその数が増え始めている」
リーフさんは静かに語る。
「その影響もあってか、各地でアクシデントが頻発している。学園の生徒が巻き込まれる件も増えた。由々しき事態だよ」
淡々とした口調だが、その奥に焦燥が滲んでいる。
「だから私は、新たな勇者を見出さねばならないと考えた。しかし従来通りの選抜方法では、勇者の重責を担える逸材は現れない。それに……」
そこで言葉が途切れる。
「……それに?」
問い返すと、リーフさんは一瞬、視線を落とした。
どこか言い淀むような、慎重な表情。
「前任の勇者も、不運な目に遭ってしまったからね」
「ッ……!?」
心臓が強く跳ねる。
不運な目に遭った?
それはつまり――。
「リーフさんは……勇者がどうなったか、知っているんですか?」
自分でも驚くほど、声が低くなっていた。
十年前。
あの日を最後に、勇者は姿を消した。誰も行方を知らない。少なくとも、自分はそう思っていた。
だが、今の口ぶりは明らかに違う。
この人は、何かを知っている。
「……」
沈黙。
わずか数秒が、やけに長く感じられる。
「私が知っていることは多くない。だから、私の口からは語れないんだ」
「そ、そんな……」
はぐらかされた。
だが、知らないのではない。
“語れない”と言ったのだ。
つまり、語れない事情があるということ。
胸の奥がざわつく。
嫌な想像が頭をよぎる。
まさか――もう。
だが、それ以上の言葉は続かない。
十年経った。
どんな結末であれ、受け止める覚悟はできている。そう思っていた。
それでも、真実を拒まれると、こんなにも苦しいのか。
無言のまま視線で訴えるが、リーフさんは静かに首を振った。
「……いずれ、分かる時が来るよ」
「え? どういう意味ですか?」
「それも、いずれ分かる」
それ以上は語らないという、明確な意思表示だった。
気になる部分だけを残し、核心は伏せられたまま。
余計に不安が募る。
だが、リーフさんは空気を切り替えるように、軽く手を打った。
「ともかく、だ。私は勇者の資質を探している。だが今の時代に必要なのは、高い魔力量や戦闘能力だけではない。そこに“強運”が加わって初めて、真に生き残れる存在になる」
「……」
「だから今年の試験は、意図的に運要素を強くした。そういう話だよ」
半ば強引に話を締められた形だが、理屈は理解できる。
魔力が高く、実力があり、なおかつ強運。
確かにそんな人物がいれば、伝説級の勇者になれるだろう。
――まるで物語の主人公のような存在だ。
だが。
「……そんな人、本当にいるんでしょうか?」
口からこぼれたのは、率直な疑問だった。
実力者はいるだろう。
天才もいるだろう。
だが、不運すら退ける強運の持ち主など、そう簡単に存在するとは思えない。
何十年に一人。
いや、何百年、何千年に一人の逸材ではないのか。
すると、リーフさんは不意に目を細めた。
「おや? 自覚はないタイプかな?」
「……?」
次の瞬間。
彼はまっすぐにこちらを指差した。
「私は、君にその資質を感じているんだけどね」
空気が、止まった。
「……え?」
思考が追いつかない。
今、何と言った?
自分に――勇者の資質がある、と?
心臓の鼓動がうるさい。
冗談だと言ってほしいのに、リーフさんの表情はどこまでも真剣だった。
まるで、確信しているかのように。