「えっ?! お、俺が?!」
思わず敬語も忘れて声を上げてしまう。
自分が――勇者の資質?
そんなはずがない。
確かに、魔力量なら他の受験者に引けは取らない自覚はある。実戦経験だって、あの出来事を経てそれなりに積んできた。
だが、“運が強い”かと問われれば話は別だ。
今回の試験もそうだし、これまでの人生を振り返っても、とても強運の持ち主とは思えない。むしろ凶運の類だろう。自分の歩んできた道は、いつだって血と喪失に塗れている。
「試験の際、途中まで君の動きを拝見していたよ」
リーフさんは穏やかな口調で続ける。
「あれだけの受験者がいたにも関わらず、君は終始単独で、淀みなく進んでいた。あの混乱の中で自由に動けていたのは、君ぐらいのものだ」
その言葉に、試験当時の光景が蘇る。
だが自分の記憶では、誰とも遭遇しない孤独の時間がやけに長く感じられた。焦りと不安の方が強かったくらいだ。余裕などなかった。
傍から見れば、あれは“順調”に映っていたのだろうか。
「その後、君は二名の受験者と接敵した。後に判明したが、彼らは監視魔導カメラをハッキングし、偽映像を流していた。殺害目的の隠蔽工作だ。よって受験資格は永久剥奪とした」
淡々と告げられる処分。
永久剥奪――重い判決だ。
当然といえば当然だが、パットとロンドの末路を思うと複雑な気持ちになる。自業自得だと思う一方で、あの性格では今後さらに道を踏み外す可能性も高い。そうならなければいいが、と一瞬だけ考えてしまう自分がいた。
「話を戻そう。最後、二対一で勝利した場面も確認している。普通の受験生にはまず不可能だ。それだけで十分、君の力量は測れる」
確かな評価。
その目は本気だ。お世辞ではない。
だが――。
「……でも、運が良かったのはあいつらの方です」
自然と口が開いていた。
「馬鹿な真似をしなければ、受かっていたのは向こうでしょう。俺は脱出もギリギリだった。とても運が良いとは思えません」
どうしても納得できない。
“運に恵まれている”などという評価が。
「……それに……」
言葉が詰まる。
父や母。
ラエル。
ドレーカ村の人たち。
彼らが死んだのは“不運だったから”?
そんな言葉で片付けられるはずがない。
「……っ!」
気づけば拳を強く握り締めていた。爪が食い込み、痛みが走る。唇も噛み締めすぎたのか、鉄の味が広がる。
胸の奥から込み上げる怒り。
だが、それが誰に向いているのか分からない。
リーフさんではない。
あの魔物たちでもない。
きっと、自分自身だ。
あの地獄から生き残ったことを、“運が良かった”で済ませてしまえば、全てが軽くなってしまう。あれは偶然ではない。罰だ。怠惰に生きようとした自分への、神からの試練。
――そうでも思わなければ、やりきれない。
教会で世話になった身で、神を恨むような思考を巡らせる自分に、苦笑が漏れそうになる。きっとエリカさんと神父様に知られたら、叱られるだろう。
「俺は、偶然生き残ったんじゃない。だから……運が良かったなんて、思いたくないんです」
吐き出すように告げる。
感情が抑えきれなかった。
リーフさんを責める意図はない。だが、どうしても言わずにはいられなかった。
しばしの沈黙。
やがて、静かな声が返る。
「……失言だったようだね。気を悪くさせたのなら謝ろう」
「……いえ……」
違う。悪いのは自分だ。
学園の理事長に謝罪させてしまった事実が、余計に胸を締め付ける。まともに顔を見ることができない。
馬車の中に、重苦しい空気が落ちる。
白い魔導馬が静かに地面を蹴り、車輪が回る音だけが響く。
誰も言葉を発さないまま、馬車はゆっくりと学園へ向かって進んでいった。
――転生勇者が死ぬまで、残り4105日。