「『ふっ、今度は魔法で攻撃ですか。だが詠唱させる暇など……』」
「【火球《フレール》】!!」
「『なにっ?!』」
エイシャが油断している隙に、無詠唱の火球を放った。
奴は詠唱に時間がかかると踏んでいたのだろう。
しかし今の俺は、二〇〇%の力を引き出せる状態だ。
無詠唱魔法とはいえ、地面を抉るほどの巨大な火球を放つことも容易い。
「『くっ!』」
とはいえ、速度は決して速いわけではなく、油断していたエイシャにすら避けられてしまった。
やはり攻撃魔法を当てるのは難儀だ。
――だが、今はそれでいい。
おかげでエイシャと、俺の刀を奪った手との距離が開いた。取り返すなら今しかない。
「はあああああっ!!」
離れたことを確認した俺は、脱兎跳躍を駆使して手へと飛ぶ。
一瞬で辿り着き、即座に刀を掴む。
今度こそ、取り返してみせる。
「ふんっ!!」
「?!」
刀に魔力を込めると、噴火のような勢いで炎が噴き出し、手の内部を焼き尽くしていく。
これだけの火力なら抜けるはずだ。
底なし沼のようだと比喩したが、所詮は魔法で作られた存在。魔力の攻撃に耐えられるはずがない。
「よしっ!」
炎で満たされた手は弾けるように消失し、俺は刀の奪還に成功する。
――あとは。
「あとは、お前だけだ」
「『……』」
取り返した刀をエイシャへ向ける。
さすがにもう余裕はない。この一撃で確実に仕留めなければならない。
「炎獅子、蒼炎、光炎万丈」
刀を上段に構え、詠唱を開始する。
刀身へ炎が集束し、真紅の炎が次第に青白く変わっていく。
極限まで濃縮された炎を解き放つ一振りは、赫火断刀の数倍の威力を誇る。
その代償として、業炎刀は一度限りで砕けてしまうのが欠点だが――今は関係ない。
「燎原《りょうげん》の火、劫火《ごうか》、業火、瞋恚《しんい》の炎!」
詠唱を重ねるほど、青白い炎は刀身の内側で膨れ上がり、
あまりの魔力に、刀が自ら震えだす。今にも砕けそうだ。
――頼む。もう少しだけ持ってくれ。
「『ほう、面白い』」
「!?」
その瞬間、エイシャから桁違いの魔力が噴き上がる。
奴も全力の魔法で迎え撃つつもりか。
「『イノス・レールステン。私も全力の魔法をお見せしましょう。これで、どちらが立っていられるか――勝負です』」
「……」
エイシャは眼前に巨大な黒い球体を出現させる。
ゴーレムの時よりも遥かに大きい。
「『■■■、◆◆◆!』」
「ッ?!」
詠唱が始まる。
だがその発音は、明らかに人語ではない――魔族の言葉。
詠唱に合わせ、黒球はさらに膨張していく。
すでにゴーレムを超える大きさだったそれは、気づけば結界の三分の一を占めるほどにまで成長していた。
――間違いない。規格外の魔法だ。
あれを斬り裂き、さらに奴自身も斬らねばならない。
……できるのか?
「業火滅却!!」
――いや、やるんだ!
絶対に!!
村を。
村の人々を。
家族を――守るために!!!
「獅炎咆斬《ライム・ロアッシュ》!!!!」