それから数日が経ち、ついに入学式当日を迎えた。
――あの日の翌日、なぜかミオにぶん殴られたこと以外は特に問題もなく。
「……よし、これで大丈夫かな」
自室の鏡の前で身だしなみを整える。制服なんて何年ぶりだろうか。
前世の高校の制服とはまるで違う。黒と赤を基調にしたローブ風のデザインで、どこか魔法使いを思わせる意匠になっている。裾や襟元の装飾も凝っていて、なかなかに格好いい。
正直、かなり気に入った。
やっぱり男は赤と黒に弱い。異論は認める。
『おーい、サダメー! いるかー?』
ノックと共に聞こえてきた聞き覚えのある声。
「ん?」
ちょうど身だしなみチェックを終えたところだった。
「はーい」
返事をして扉を開けると、そこには金髪の青年が立っていた。
「よっ、おはよーさん!」
「おお、おはよう」
彼の名はギリスケ・アンドリューズ。
同い年で同学年。二日前に寮で知り合い、妙に気が合ってつるむようになった、この学園で最初にできた男友達だ。
基本的に明るく気さくな男だが、猥談の頻度がやや高いのが玉に瑕。
こいつがマヒロの水浴び現場に遭遇していたら大惨事になっていただろう。主に物理的な意味で。
「準備できたかー? なら、さっさと会場行こうぜ!」
「お、おう。ちょっと待て」
ベッドに置いていた手提げのスクールバッグを掴み、部屋を後にした。
会場付近まで来たところで、背後からやたら元気な声が飛んできた。
「あっ、サダメでござる! おーい!」
振り向けば、制服姿のマヒロとミオが駆け寄ってくる。
「おお、二人ともおは――」
「マヒロちゃんにミオちゃん! おはよー!」
……遮られた。
隣で大音量を出すのはやめてほしい。一瞬、耳がキーンとなった。
「ギリスケ殿、おはようでござる」
「おはよう」
「お前、殿呼び気にしないのか?」
「ん? ああ。むしろ“殿”って呼ばれるの興奮しね?」
「……さいですか」
理解はできないが、まあこいつらしい。
「それにしても二人とも、制服めちゃくちゃ似合ってるよ!」
ギリスケが目を輝かせる。
女子制服も赤と黒を基調にしているが、男子よりも柔らかな印象のデザインだ。特にスカートは動きやすさを重視した形状になっている。
「本当でござるか? 拙者も可愛くて良いと思っておったでござる!」
「うんうん、最高だよ! 特にスカートとか――」
嫌な予感がする。
「丈短めなの、いいよなー!」
鼻息荒く力説するギリスケ。
「うむ! 丈が短い方が動きやすいでござる! 近接戦主体の拙者としては実に理にかなっておる!」
話が噛み合っているようで噛み合っていない。
……いや、微妙に噛み合っているのが余計に危険だ。
ギリスケの視線が怪しく下がる。
「もうちょっとだけ、よく見せ――」
「ふんっ!」
鈍い音。
「ぶほっ?! な、んで俺ま――」
さらにもう一撃。
「ぐはっ?!」
「……え?」
気づけば、なぜか自分の腹にも衝撃が走っていた。
理不尽である。
「こんな奴らほっといて行くよ、マヒロ」
「ミオ? おろろ?」
ミオは涼しい顔でマヒロの腕を引き、そのまま会場へ向かって歩き出す。
一方、自分とギリスケはしばらくその場でうずくまっていた。
「……理不尽だ」
「俺は分かるけど、お前はなんでだよ……」
入学式前から前途多難である。
――転生勇者が死ぬまで、残り4101日。