転生勇者が死ぬまで10000日   作:慶名 安

153 / 169
第5章ー16

 「こちらが一年の教室となります。席は自由ですので、担当教諭が来るまで待機してください。お手洗いは今のうちに済ませておくように」

 

 案内役の言葉とともに扉が開かれる。

 

 「うへー、ひれー……」

 

 思わず漏れた声は、決して誇張ではなかった。

 

 目の前に広がっていたのは、講義室と呼ぶに相応しい広さの教室。段差こそないものの、横幅も奥行きも十分にあり、まるで大学の講堂のようだ。……まあ、大学に通ったことはないから想像だが。

 

 新入生たちも一様にきょろきょろと辺りを見回し、軽いざわめきが広がっている。

 

 「んじゃ、適当に座ろーぜ」

 

 案内役が去ると同時に、俺たちは流れに乗って席へ向かった。

 

 長時間立ちっぱなしだったせいか足がじんわりと重い。結果的に、俺とギリスケは前から二番目、ミオとマヒロはその一列前に腰を下ろす形になった。

 

 椅子に体重を預けた瞬間、ようやく緊張がほどける。

 

 ――そして、待つ。

 

 

 

 「……なあ、遅くね?」

 

 「だよな。もう三十分くらい経ってそうだぞ」

 

 最初は「どんな先生が来るんだろうな」だの「美人だったら最高だな」だのと盛り上がっていたが、さすがに間が空きすぎた。

 

 教室内のざわめきも、次第にだらけた空気へと変わっていく。

 

 何かあったのだろうか。

 

 

 

 ドサッ。

 

 

 

 「ん?」

 

 突然、鈍い音が入口付近から響いた。

 

 反射的に視線を向ける。

 

 「……ッ?」

 

 扉の前で、男が倒れていた。

 

 つまずいたようにも見えるが――起き上がらない。

 

 教室の空気が一瞬で変わる。

 

 「あの、大丈夫ですか?!」

 

 真っ先に動いたのはミオだった。

 

 迷いなく駆け寄る姿に、俺たちも慌てて後を追う。

 

 近づいてみると、倒れているのは三十代半ばほどの男。ぼさぼさの髪に伸びた顎鬚。服装もどこか乱れており、とても教師には見えない。

 

 生徒でもない。

 学園関係者……なのか?

 

 「はあ……はあ……」

 

 荒い呼吸。

 

 顔色は悪く、額にはうっすらと汗。

 

 「どこか痛みますか? 呼吸はできますか? 意識ははっきりしていますか?」

 

 ミオの声は冷静だった。薬屋の娘らしく、手際よく容態を確認していく。

 

 だが男は苦しげに呻くだけで、返答にならない。

 

 周囲の生徒たちも固唾を飲んで見守っている。

 

 「私の声、聞こえますか? 聞こえるなら何か――」

 

 「……わるい」

 

 かすれた声。

 

 「え? 今、何て……?」

 

 ミオが耳を近づける。

 

 俺たちも思わず息を詰める。

 

 何か重大なことを伝えようとしているのか。

 事件か、事故か、それとも――

 

 教室中の視線が、男の口元に集中する。

 

 

 

 沈黙。

 

 

 

 そして――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

           「昨日、飲み過ぎて、気持ち悪い」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。