「こちらが一年の教室となります。席は自由ですので、担当教諭が来るまで待機してください。お手洗いは今のうちに済ませておくように」
案内役の言葉とともに扉が開かれる。
「うへー、ひれー……」
思わず漏れた声は、決して誇張ではなかった。
目の前に広がっていたのは、講義室と呼ぶに相応しい広さの教室。段差こそないものの、横幅も奥行きも十分にあり、まるで大学の講堂のようだ。……まあ、大学に通ったことはないから想像だが。
新入生たちも一様にきょろきょろと辺りを見回し、軽いざわめきが広がっている。
「んじゃ、適当に座ろーぜ」
案内役が去ると同時に、俺たちは流れに乗って席へ向かった。
長時間立ちっぱなしだったせいか足がじんわりと重い。結果的に、俺とギリスケは前から二番目、ミオとマヒロはその一列前に腰を下ろす形になった。
椅子に体重を預けた瞬間、ようやく緊張がほどける。
――そして、待つ。
「……なあ、遅くね?」
「だよな。もう三十分くらい経ってそうだぞ」
最初は「どんな先生が来るんだろうな」だの「美人だったら最高だな」だのと盛り上がっていたが、さすがに間が空きすぎた。
教室内のざわめきも、次第にだらけた空気へと変わっていく。
何かあったのだろうか。
ドサッ。
「ん?」
突然、鈍い音が入口付近から響いた。
反射的に視線を向ける。
「……ッ?」
扉の前で、男が倒れていた。
つまずいたようにも見えるが――起き上がらない。
教室の空気が一瞬で変わる。
「あの、大丈夫ですか?!」
真っ先に動いたのはミオだった。
迷いなく駆け寄る姿に、俺たちも慌てて後を追う。
近づいてみると、倒れているのは三十代半ばほどの男。ぼさぼさの髪に伸びた顎鬚。服装もどこか乱れており、とても教師には見えない。
生徒でもない。
学園関係者……なのか?
「はあ……はあ……」
荒い呼吸。
顔色は悪く、額にはうっすらと汗。
「どこか痛みますか? 呼吸はできますか? 意識ははっきりしていますか?」
ミオの声は冷静だった。薬屋の娘らしく、手際よく容態を確認していく。
だが男は苦しげに呻くだけで、返答にならない。
周囲の生徒たちも固唾を飲んで見守っている。
「私の声、聞こえますか? 聞こえるなら何か――」
「……わるい」
かすれた声。
「え? 今、何て……?」
ミオが耳を近づける。
俺たちも思わず息を詰める。
何か重大なことを伝えようとしているのか。
事件か、事故か、それとも――
教室中の視線が、男の口元に集中する。
沈黙。
そして――
「昨日、飲み過ぎて、気持ち悪い」