「「……はっ?」」
男の言葉に、俺たちは揃って間の抜けた声を漏らした。
飲み過ぎた?
何をだ。腐った牛乳でも一気飲みしたのか――などという淡い想像は、次の瞬間に粉々になる。
「酒……飲み過ぎて……二日酔いが酷い……うぶっ!?」
「……」
自白だった。
しかも盛大な。
吐き気を堪えながらの告白という、なんとも情けない状況である。
二日酔いで倒れるほど飲むって、どれだけ摂取したのだこの人は。
常識的な量を明らかに逸脱している。
あまりの酷さに、冷静沈着なミオですら一瞬言葉を失っている。
教室内の緊迫した空気は、別の意味で凍りついた。
「いやー、すまないね皆」
不意に聞き慣れた声がした。
振り向くと、そこに立っていたのは――
「リーフさん?!」
先ほど壇上で祝辞を述べていた理事長その人だった。
「『明日入学式だから程々に』と注意したつもりだったんだけどね。心配で様子を見に来たら、案の定だ」
額に手を当て、やれやれといった様子でため息をつく。
え?
今、なんと言った?
「この人、知り合いなんですか?」
ミオが恐る恐る尋ねる。
まさか理事長の友人か何かが酔っ払って乱入してきた、などという最悪のパターンだろうか。
だが、リーフの言葉が妙に引っかかる。
“明日入学式だから程々に”。
この日に合わせて注意していた?
それはつまり――
学園関係者、ということか?
だが目の前の男は、ぼさぼさの髪、伸び放題の顎鬚、しわだらけのシャツ。清潔感という単語が泣いて逃げ出しそうな風貌だ。
ここは貴族学校だぞ?
さすがにそれはない……ないよな?
「知り合いもなにも――今日から君たちのクラスを担任する、アサヒ・コールスタッシュ先生だよ」
『……えっ?!』
たぶんこの瞬間、クラス全員の心が完全に一つになった。
絶望という形で。
「あの……今、なんて?」
顔を真っ青にしながら、ミオがもう一度確認する。
やめろミオ。それ以上追撃するな。傷が深くなる。
「彼が君たちの担任、アサヒ・コールスタッシュ先生だ。色々世話の焼ける人物だが、実力は本物だよ」
爽やかな笑顔で言い切るリーフ。
「酒と煙草とギャンブルが大好きだけど、女遊びはしないから安心してくれ」
安心材料の提示の仕方がおかしい。
「女は時間と金がかかるから面倒なだけですよ」
当人が追撃してきた。
しかも吐き気をこらえながら。
助け起こそうとした女生徒の目の前で、よくそんな台詞が言えるな。
「……嘘……」
誰かが小さく呟いた。
たぶん全員の総意だ。
「ほら、せめて先生らしく何か一言どうだい?」
リーフがにこやかに促す。
「んー……まあ、これからよろしくぅー……うっぷ!?」
再び込み上げる吐き気。
『……』
沈黙。
誰一人として拍手をする者はいない。
こうして――
希望に満ちたはずの学園生活は、二日酔いの担任によって華々しく幕を開けたのだった。
前途多難すぎる。