転生勇者が死ぬまで10000日   作:慶名 安

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第5章ー17

 「「……はっ?」」

 

 男の言葉に、俺たちは揃って間の抜けた声を漏らした。

 

 飲み過ぎた?

 

 何をだ。腐った牛乳でも一気飲みしたのか――などという淡い想像は、次の瞬間に粉々になる。

 

 「酒……飲み過ぎて……二日酔いが酷い……うぶっ!?」

 

 「……」

 

 自白だった。

 

 しかも盛大な。

 

 吐き気を堪えながらの告白という、なんとも情けない状況である。

 

 二日酔いで倒れるほど飲むって、どれだけ摂取したのだこの人は。

 常識的な量を明らかに逸脱している。

 

 あまりの酷さに、冷静沈着なミオですら一瞬言葉を失っている。

 

 教室内の緊迫した空気は、別の意味で凍りついた。

 

 

 

 「いやー、すまないね皆」

 

 

 

 不意に聞き慣れた声がした。

 

 振り向くと、そこに立っていたのは――

 

 「リーフさん?!」

 

 先ほど壇上で祝辞を述べていた理事長その人だった。

 

 「『明日入学式だから程々に』と注意したつもりだったんだけどね。心配で様子を見に来たら、案の定だ」

 

 額に手を当て、やれやれといった様子でため息をつく。

 

 え?

 

 今、なんと言った?

 

 「この人、知り合いなんですか?」

 

 ミオが恐る恐る尋ねる。

 

 まさか理事長の友人か何かが酔っ払って乱入してきた、などという最悪のパターンだろうか。

 

 だが、リーフの言葉が妙に引っかかる。

 

 “明日入学式だから程々に”。

 

 この日に合わせて注意していた?

 

 それはつまり――

 

 学園関係者、ということか?

 

 だが目の前の男は、ぼさぼさの髪、伸び放題の顎鬚、しわだらけのシャツ。清潔感という単語が泣いて逃げ出しそうな風貌だ。

 

 ここは貴族学校だぞ?

 

 さすがにそれはない……ないよな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「知り合いもなにも――今日から君たちのクラスを担任する、アサヒ・コールスタッシュ先生だよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

               『……えっ?!』

 

 

 

 たぶんこの瞬間、クラス全員の心が完全に一つになった。

 

 絶望という形で。

 

 「あの……今、なんて?」

 

 顔を真っ青にしながら、ミオがもう一度確認する。

 

 やめろミオ。それ以上追撃するな。傷が深くなる。

 

 「彼が君たちの担任、アサヒ・コールスタッシュ先生だ。色々世話の焼ける人物だが、実力は本物だよ」

 

 爽やかな笑顔で言い切るリーフ。

 

 「酒と煙草とギャンブルが大好きだけど、女遊びはしないから安心してくれ」

 

 安心材料の提示の仕方がおかしい。

 

 「女は時間と金がかかるから面倒なだけですよ」

 

 当人が追撃してきた。

 

 しかも吐き気をこらえながら。

 

 助け起こそうとした女生徒の目の前で、よくそんな台詞が言えるな。

 

 「……嘘……」

 

 誰かが小さく呟いた。

 

 たぶん全員の総意だ。

 

 「ほら、せめて先生らしく何か一言どうだい?」

 

 リーフがにこやかに促す。

 

 「んー……まあ、これからよろしくぅー……うっぷ!?」

 

 再び込み上げる吐き気。

 

 『……』

 

 沈黙。

 

 誰一人として拍手をする者はいない。

 

 こうして――

 

 希望に満ちたはずの学園生活は、二日酔いの担任によって華々しく幕を開けたのだった。

 

 前途多難すぎる。

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