転生勇者が死ぬまで10000日   作:慶名 安

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第5章ー18

 「えー、コールスタッシュ先生の体調が優れないようなので、今日は私が代わりに進行させてもらうよ。よろしくね」

 

 結局この日だけは、リーフさんが教壇に立つことになった。

 

 一方、当のコールスタッシュ先生は教壇の脇で椅子にもたれ、ぐったりしている。時折「うー……あー……」と、まるでゾンビのような呻き声を上げるものだから、どうしても視線がそちらへ吸い寄せられてしまう。

 

 せめて静かにしていてほしい。

 

 「あれが教師ってマジ?」

 

 「授業まともにできんのかよ……」

 

 「名門校って聞いてたのに、ちょっとガッカリだな」

 

 後方からひそひそと不安の声が聞こえてくる。

 

 まあ、無理もない。酒と二日酔いで倒れる担任など、安心材料が一つもない。今後苦情が出てもおかしくはないだろう。むしろ今この瞬間に出てもおかしくない。

 

 「皆、静粛に」

 

 ざわめきを制するように、リーフさんが穏やかな声を響かせた。

 

 「今日は入学初日だ。まだお互いのことも知らないだろう。というわけで、最初の授業は自己紹介から始めよう」

 

 空気を切り替えるには無難な提案だ。

 

 「ただ名前を言うだけでは味気ない。出身地や好きなもの、将来の夢なども加えてくれると嬉しいな。それでは、前列から順にお願いしよう」

 

 「うへー、マジかよ」

 

 「自己紹介とか一番ダルいヤツじゃん……」

 

 生徒たちの反応は芳しくない。

 気恥ずかしさもあってか、積極的にやりたいという者は少なそうだ。

 

 分かる。自分のことを大勢の前で語るのは、思っている以上に勇気がいる。思春期特有の「どう見られるか」という不安が、どうしても頭をよぎる。

 

 

 

 「えーっと、将来の夢は騎士団に入ることです。よろしくお願いします」

 

 「うん、素晴らしい目標だね。では次」

 

 順番は淡々と進んでいく。

 

 そして――ついに自分の番が回ってきた。

 

 心臓が、わずかに跳ねる。

 

 落ち着け、サダメ。

 ただ自己紹介をするだけだ。笑いを取る必要もない。無難に終わらせればいい。

 

 「サダメ・レールステン。出身はリーヴ村。好きなものは……特に思いつきません」

 

 ここまでは順調。

 

 問題は、その先だ。

 

 「将来の夢は――」

 

 そこで、言葉が詰まった。

 

 当たり前のように「勇者になることです」と言おうとした瞬間、ふと周囲の視線が気になった。

 

 今までは、勇者になると言っても周りは応援してくれた。

 だがここは違う。

 

 同年代の生徒たちの前で、子供じみた夢を口にして――

 笑われないか?

 馬鹿にされないか?

 

 そんな考えが一瞬でもよぎった自分に、わずかに苛立つ。

 

 「……?」

 

 「どうしたんだい?」

 

 リーフさんの声で現実に引き戻される。

 

 怖いのか?

 

 夢を語ることが、こんなにも怖かっただろうか。

 

 「……ふぅ」

 

 一つ、息を吐く。

 

 ここに来た目的は何だ?

 

 何のために努力してきた?

 

 思い出せ。

 

 父の背中を追い、血の滲むような鍛錬を重ねた日々を。

 

 自分が選んだ道を。

 

 周囲の視線が、少しずつ遠のいていく。

 

 誰にどう思われようが関係ない。

 

 自分は、そのためにここへ来たのだから。

 

 「……俺の、将来の夢は――」

 

 胸の奥に灯った決意を、そのまま声に乗せる。

 

 「勇者になることです!」

 

 教室に、自分の声がはっきりと響いた。

 

 それはきっと、勇者への道を歩み始める――最初の一歩だった。

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