「えっ? 今、勇者って言った?」
「マジで? ウケるー」
「……」
予想していた通り、教室のあちこちから小さな笑い声が漏れた。
あからさまな嘲笑というほどではない。
だが、確実に“浮いた”空気は伝わってくる。
「……サダメ……」
前の席から、ミオが振り返る。心配そうな瞳。
けれど、これでいい。
分かっていたことだ。
勇者になるなんて夢は、同年代の前で語れば子供じみて聞こえる。
反論するのはお門違いだ。
俺は何も言わず、静かに席へ腰を下ろした。
自分はここへ青春を送りに来たわけじゃない。
夢を叶えるために来た。
それだけだ。
「うん。私は素晴らしい夢だと思うよ。それでは次、いこうか」
リーフさんが穏やかに言葉を添える。
さりげないフォロー。
だが、あの人は最初から知っている。俺の目標も覚悟も。
初めて会ったときも、笑わずに話を聞いてくれた人だ。
それに、あの人自身が新たな勇者を求めている。
そう考えれば、俺の夢はこの場で一番歓迎されるものなのかもしれない。
「ギリスケ・アンドリューズ。出身はソルード村。好きなものは……」
次はギリスケの番だ。
いつもの調子で始まったかと思えば、途中で一度、妙に大きな深呼吸を挟む。
嫌な予感がした。
「女の子、です!!」
「ッ?! ギリスケ?!」
教室中に響き渡る大声。
隣で急に叫ばれ、思わず耳を押さえる。何をやっているんだこいつは。
「好みのタイプは特に決めてません! 背が高くても低くても、長髪でも短髪でも、おっぱいが大きくても小ぶりでも基本なんでもいけます!」
「う、うん……?」
リーフさんが明らかに困惑している。
あんな顔、初めて見た。
「将来の夢は自分だけのハーレムを作ること! この学園を卒業すれば箔が付きますよね?! それを上手く使えば女の一人や二人、余裕で寄ってきますよね?!」
「んー、どうだろう……」
理事長が完全に受け身だ。
「その前にまずはこの学園にいる女の子百人と付き合うことから始めたいと思います! ここにいる女性陣、このギリスケ・アンドリューズはいつでもどこでもいかなる時でも貴女たちの告白をお待ちしております! どうぞよろしくお願いいたします! 以上! あざっした!!」
勢いよく一礼。
教室が、凍りついた。
先ほどの嘲笑はどこへやら。
今はただ、圧倒的な熱量に言葉を失っている。
「……ぎ、ギリスケ、お前……」
ようやく声を絞り出す。
だが、言葉が続かない。
「ふっ。この勝負、俺の勝ちだな」
勝ち誇った顔でサムズアップ。
たぶん今、教室で一番ムカつく男だ。
……なのに。
「……ぷっ。なんの勝負だよ」
気づけば、笑いがこみ上げていた。
さっきまで自分に向けられていた視線は、完全に彼へ移っている。
馬鹿にされる役を、全部引き受けたのだ。
わざとなのか、天然なのかは分からない。
でも――
いい友人を持ったな。
そう、心の底から思った。