その後、自己紹介は大きな波もなく続いていった――はずだった。
「あいつって、あの変態の仲間なんだよな?」
「ってことは、モテたいから勇者目指してるとか?」
「勇者の肩書きで女選び放題ってか? ウケるー」
「……」
ギリスケの爆弾発言の余波は、どうやら俺にまで及んでいるらしい。
どうやら俺と彼が仲良くしていることは、すでにクラス内で共有済みのようだ。そこから飛躍して、「モテたいから勇者を目指している」「勇者になれば女を選り好みできると思っている」「毎晩違う女と遊ぶ気なのでは」などと、好き勝手な疑惑が積み上げられていく。
完全に風評被害だ。
……やはり一度、あいつとの距離感を真剣に考えるべきかもしれない。
とはいえ、さっき自分の代わりに視線を引き受けてくれたことも事実だ。単純に切り捨てられないのが、また厄介だ。
「さて、次で最後かな。それじゃあ、よろしく」
リーフさんの声で思考が中断される。
どうやら、自己紹介もいよいよ最後の一人らしい。
一番右奥の席に座っていた男子生徒が、無言で立ち上がった。
その瞬間――空気が変わった。
「ねえ、あの人イケメンじゃない?」
「顔立ちヤバくない? 整いすぎでしょ……」
女子生徒たちがざわめく。
さっきまでの嘲笑とは別の意味で、視線が一斉に集まった。
雪のように白い髪。
そして、独特な紋様が刻まれた眼帯。
片目は隠れているはずなのに、それでも分かる。
隠しきれないほど整った顔立ち。思わず女性と見間違えそうになるほど繊細で、しかしその目つきは鋭く冷たい。
まるで、常に何かを睨みつけているかのような視線。
「名はアラガ。出自はウルヴェド。好きなものはない」
声は低く、感情の起伏がほとんどない。
だが――
どこか、怒りを孕んでいるように感じた。
何に対する怒りだ?
教壇の横で呻いている担任か。
わざわざ自己紹介をさせたリーフさんか。
それとも、もっと別の何かか。
そして――ウルヴェド。
その地名に、引っかかるものを覚えた。
どこかで聞いたことがある。
父だったか? 母だったか?
ドレーカ村の誰か?
いや、もっと後だ。リーヴ村で暮らし始めた頃か?
神父様? エリカさん?
いや、違う。
なのに、確かに聞いた覚えがある。
思い出せない記憶が、胸の奥でくすぶる。
もやもやとした違和感を抱えたまま、俺は彼を見つめていた。
そのときだった。
夢を語る番になった彼が、ふとこちらへ視線を向けた。
目が合う。
一瞬。
ほんの一瞬だが――
その視線は、明確に俺へ向けられていた。
そしてそこに浮かんでいたのは、好意でも無関心でもない。
嫌悪。
あるいは、敵意。
背筋に、冷たいものが走る。
何故だ。
俺は彼と、まだ一言も交わしていないはずだ。
教室のざわめきが、遠くなる。
彼は視線を外さぬまま、静かに口を開いた。
「俺の夢は、魔王を殺すことだ」