転生勇者が死ぬまで10000日   作:慶名 安

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第5章ー20

 その後、自己紹介は大きな波もなく続いていった――はずだった。

 

 「あいつって、あの変態の仲間なんだよな?」

 

 「ってことは、モテたいから勇者目指してるとか?」

 

 「勇者の肩書きで女選び放題ってか? ウケるー」

 

 「……」

 

 ギリスケの爆弾発言の余波は、どうやら俺にまで及んでいるらしい。

 

 どうやら俺と彼が仲良くしていることは、すでにクラス内で共有済みのようだ。そこから飛躍して、「モテたいから勇者を目指している」「勇者になれば女を選り好みできると思っている」「毎晩違う女と遊ぶ気なのでは」などと、好き勝手な疑惑が積み上げられていく。

 

 完全に風評被害だ。

 

 ……やはり一度、あいつとの距離感を真剣に考えるべきかもしれない。

 

 とはいえ、さっき自分の代わりに視線を引き受けてくれたことも事実だ。単純に切り捨てられないのが、また厄介だ。

 

 「さて、次で最後かな。それじゃあ、よろしく」

 

 リーフさんの声で思考が中断される。

 

 どうやら、自己紹介もいよいよ最後の一人らしい。

 

 一番右奥の席に座っていた男子生徒が、無言で立ち上がった。

 

 その瞬間――空気が変わった。

 

 「ねえ、あの人イケメンじゃない?」

 

 「顔立ちヤバくない? 整いすぎでしょ……」

 

 女子生徒たちがざわめく。

 

 さっきまでの嘲笑とは別の意味で、視線が一斉に集まった。

 

 雪のように白い髪。

 そして、独特な紋様が刻まれた眼帯。

 

 片目は隠れているはずなのに、それでも分かる。

 隠しきれないほど整った顔立ち。思わず女性と見間違えそうになるほど繊細で、しかしその目つきは鋭く冷たい。

 

 まるで、常に何かを睨みつけているかのような視線。

 

 「名はアラガ。出自はウルヴェド。好きなものはない」

 

 声は低く、感情の起伏がほとんどない。

 

 だが――

 

 どこか、怒りを孕んでいるように感じた。

 

 何に対する怒りだ?

 

 教壇の横で呻いている担任か。

 わざわざ自己紹介をさせたリーフさんか。

 それとも、もっと別の何かか。

 

 そして――ウルヴェド。

 

 その地名に、引っかかるものを覚えた。

 

 どこかで聞いたことがある。

 

 父だったか? 母だったか?

 ドレーカ村の誰か?

 いや、もっと後だ。リーヴ村で暮らし始めた頃か?

 

 神父様? エリカさん?

 いや、違う。

 

 なのに、確かに聞いた覚えがある。

 

 思い出せない記憶が、胸の奥でくすぶる。

 

 もやもやとした違和感を抱えたまま、俺は彼を見つめていた。

 

 そのときだった。

 

 夢を語る番になった彼が、ふとこちらへ視線を向けた。

 

 目が合う。

 

 一瞬。

 

 ほんの一瞬だが――

 

 その視線は、明確に俺へ向けられていた。

 

 そしてそこに浮かんでいたのは、好意でも無関心でもない。

 

 嫌悪。

 

 あるいは、敵意。

 

 背筋に、冷たいものが走る。

 

 何故だ。

 

 俺は彼と、まだ一言も交わしていないはずだ。

 

 教室のざわめきが、遠くなる。

 

 彼は視線を外さぬまま、静かに口を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

           「俺の夢は、魔王を殺すことだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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