「……えっ?!」
今度こそ、教室全体が騒然となった。
魔王を殺す――?
それはつまり、勇者になるということではないのか。
「魔王を殺すということは、サダメ君と同じく勇者に――」
「違う」
リーフさんの言葉を遮るように、アラガは即座に否定した。
「俺の目的は魔王を殺すこと。それだけだ」
教室の空気が、ひやりと冷える。
理事長相手にも一歩も引かないその態度。
強がりや虚勢ではない。確信に満ちた声音だった。
勇者になるのではない。
魔王を殺す。ただそれだけ。
そこに理想も名誉も感じられない。
あるのは、純粋な殺意だけだ。
「話は終わりだ。これで満足か?」
淡々とした物言い。
「イッ!? マジかよ、アイツ……」
隣でギリスケが小声で引いている。
それも無理はない。
理事長に向かってあの態度だ。普通なら叱責されてもおかしくない。
だが。
「うん、ありがとう。よし、これで全員の自己紹介は終わりだね」
リーフさんは、顔色一つ変えなかった。
まるで何事もなかったかのように、穏やかな笑みを浮かべて進行を続ける。
あれだけあからさまな物言いをされても動じないのは、大物なのか、それとも本当に鈍感なのか。
「さて、今日から君たちは三年間、苦楽を共にする仲間だ。全員と親友になるのは難しいだろう。だが少しずつ親交を深め、月に一度の依頼任務を協力してこなしてほしい。そうすれば、ここにいる全員が無事卒業を迎えられるはずだ」
依頼任務。
その言葉に、教室内の空気がわずかに引き締まる。
「では本日の授業はここまで。この後は各教科の担当教諭から説明がある。遅れないように各教室へ向かうように。それでは私はこれで。……コールスタッシュ先生も、そろそろ限界のようなので失礼するよ」
「うぅ……もうちょっと丁寧に運んでくれません……うぶっ!?」
リーフさんは軽々と担任を担ぎ上げ、そのまま教室を後にした。
結局あの人は何一つ教師らしいことをせず退場である。
……教室で戻さなかっただけ、まだマシだったのかもしれない。
いや、基準が低すぎる。
ひとまず一時限目は終了。
理事長と担任が去った途端、教室は一気にざわめきに包まれた。
「ふあー、自己紹介だけなのに変に疲れたわー」
「アンタが変なこと言うからでしょ」
「けど拙者は男らしくて良かったと思うでござるよ。勝負していたのなら拙者にも一声かけてほしかったでござる」
「だから何の勝負なのよ」
いつもの調子で掛け合う仲間たち。
「とりあえず次の教室に移動しようぜ。なあ、サダメ」
「……ああ」
返事はしたものの、意識は別のところにあった。
アラガ。
あの視線。
目が合った瞬間、確かに感じた。
嫌悪か、憎悪か、それとも――敵意。
なぜ俺に向けられた?
まだ何もしていないはずだ。
それに、魔王を殺すというあの言葉。
理想でも使命でもなく、ただ目的として語った声音。
まるで個人的な復讐のようだった。
俺は仲間たちの後を追い、次の教室へと向かった。