「それにしても、サダメは勇者になりたかったのでござるか?」
「ん? ああ、まあ……うん。そうだけど」
「いいでござるな! カッコイイでござるー!」
「う、うん……ありがとう」
教室移動の途中、マヒロが隣に並びながら興味津々といった様子で話しかけてきた。
からかうでもなく、純粋な好奇心と尊敬が混ざった目だ。
だからこそ、余計に気恥ずかしい。
さっきあれだけ笑われた後だ。改めて口に出されると、胸の奥がむず痒くなる。
「皆、ちゃんとした目標があって羨ましいでござる」
「マヒロは『猛者といっぱい戦いたい』じゃなかったか?」
「うむ。そうなのでござるが、皆の話を聞いていると、拙者の夢は少々ぼんやりしている気がするでござるよ」
確かに彼女の夢は大雑把だ。
強い者と戦いたい。
それは彼女らしいが、終わりのない願いでもある。
具体的な到達点がない分、目標としては弱く感じるのかもしれない。
……とはいえ、ギリスケの「百人彼女」よりは遥かに健全だと思うが。
「拙者も、もっと具体的な夢を掲げたいでござるな」
「例えば?」
「うーむ……天下統一、とか?」
「どうやってやんだよ!?」
思わず即座にツッコミが出た。
この時代に天下統一。
何をどうすればそこに辿り着くのか想像もつかない。
まさか本気で王城に殴り込みでもかけるつもりじゃないだろうな。
冗談に聞こえないのが彼女の怖いところだ。
万が一そんな方向へ走り出したら、全力で止めなければならない。
「うーん……では、拙者も勇者を目指してみるでござる!」
「……」
結局そこに落ち着くのか。
なんだろう。
自分が覚悟を決めて宣言した夢に、軽やかに乗っかられた気分だ。
少しだけ複雑な気持ちになる。
「けど、勇者とはどうやってなるものなのでござるか?」
「えっ?」
予想外に核心を突く質問だった。
「勇者って……国王が認めた者がなるって聞いたことはあるけど……」
言いながら、言葉が曖昧になる。
「認められるには、実績が必要……なのかな?」
「なんの実績でござる?」
「えーっと……魔物を大量に討伐するとか、大勢の民を救うとか……」
そこで、自分で言っていて気づく。
「……それって騎士団でもできることだよな?」
勇者と騎士団の違いは何だ?
力か?
称号か?
象徴としての存在価値か?
あのとき聞いた話では、勇者は国王の命によって任命される存在だったはずだ。
だが、どうすればその目に留まるのか。
そもそも、あの若さでどうやって勇者になったのか。
確か十代後半から二十代前半だったはずだ。
あの年齢で国に認められるほどの功績を立てるには、どれほどの戦いを重ねればいいのだろう。
……思った以上に、遠い。
自分の夢は、想像以上に途方もないのかもしれない。
足が止まっていた。
無意識のうちに廊下の真ん中で立ち止まり、考え込んでいたらしい。
「おい」
低い声。
背後から呼びかけられ、思考が断ち切られる。
「ん?」
振り返る。
そこに立っていたのは――
白い髪。
紋様の刻まれた眼帯。
冷たい視線。
アラガだった。