転生勇者が死ぬまで10000日   作:慶名 安

159 / 210
第5章ー22

 「それにしても、サダメは勇者になりたかったのでござるか?」

 

 「ん? ああ、まあ……うん。そうだけど」

 

 「いいでござるな! カッコイイでござるー!」

 

 「う、うん……ありがとう」

 

 教室移動の途中、マヒロが隣に並びながら興味津々といった様子で話しかけてきた。

 

 からかうでもなく、純粋な好奇心と尊敬が混ざった目だ。

 

 だからこそ、余計に気恥ずかしい。

 

 さっきあれだけ笑われた後だ。改めて口に出されると、胸の奥がむず痒くなる。

 

 「皆、ちゃんとした目標があって羨ましいでござる」

 

 「マヒロは『猛者といっぱい戦いたい』じゃなかったか?」

 

 「うむ。そうなのでござるが、皆の話を聞いていると、拙者の夢は少々ぼんやりしている気がするでござるよ」

 

 確かに彼女の夢は大雑把だ。

 

 強い者と戦いたい。

 それは彼女らしいが、終わりのない願いでもある。

 

 具体的な到達点がない分、目標としては弱く感じるのかもしれない。

 

 ……とはいえ、ギリスケの「百人彼女」よりは遥かに健全だと思うが。

 

 「拙者も、もっと具体的な夢を掲げたいでござるな」

 

 「例えば?」

 

 「うーむ……天下統一、とか?」

 

 「どうやってやんだよ!?」

 

 思わず即座にツッコミが出た。

 

 この時代に天下統一。

 何をどうすればそこに辿り着くのか想像もつかない。

 

 まさか本気で王城に殴り込みでもかけるつもりじゃないだろうな。

 冗談に聞こえないのが彼女の怖いところだ。

 

 万が一そんな方向へ走り出したら、全力で止めなければならない。

 

 「うーん……では、拙者も勇者を目指してみるでござる!」

 

 「……」

 

 結局そこに落ち着くのか。

 

 なんだろう。

 自分が覚悟を決めて宣言した夢に、軽やかに乗っかられた気分だ。

 

 少しだけ複雑な気持ちになる。

 

 「けど、勇者とはどうやってなるものなのでござるか?」

 

 「えっ?」

 

 予想外に核心を突く質問だった。

 

 「勇者って……国王が認めた者がなるって聞いたことはあるけど……」

 

 言いながら、言葉が曖昧になる。

 

 「認められるには、実績が必要……なのかな?」

 

 「なんの実績でござる?」

 

 「えーっと……魔物を大量に討伐するとか、大勢の民を救うとか……」

 

 そこで、自分で言っていて気づく。

 

 「……それって騎士団でもできることだよな?」

 

 勇者と騎士団の違いは何だ?

 

 力か?

 称号か?

 象徴としての存在価値か?

 

 あのとき聞いた話では、勇者は国王の命によって任命される存在だったはずだ。

 

 だが、どうすればその目に留まるのか。

 

 そもそも、あの若さでどうやって勇者になったのか。

 

 確か十代後半から二十代前半だったはずだ。

 

 あの年齢で国に認められるほどの功績を立てるには、どれほどの戦いを重ねればいいのだろう。

 

 ……思った以上に、遠い。

 

 自分の夢は、想像以上に途方もないのかもしれない。

 

 足が止まっていた。

 

 無意識のうちに廊下の真ん中で立ち止まり、考え込んでいたらしい。

 

 「おい」

 

 低い声。

 

 背後から呼びかけられ、思考が断ち切られる。

 

 「ん?」

 

 振り返る。

 

 そこに立っていたのは――

 

 白い髪。

 

 紋様の刻まれた眼帯。

 

 冷たい視線。

 

 アラガだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。