転生勇者が死ぬまで10000日   作:慶名 安

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第5章ー23

 「お前、サダメとか言ったな?」

 

 低く、抑えた声。

 

 「お、おう」

 

 突然声を掛けられ、思わず喉が鳴った。

 

 教室であれだけ鋭い視線を向けていた相手だ。まさか、こうして自分から話しかけてくるとは思っていなかった。

 

 「おうおうおう。ウチの大将に何か用かい?」

 

 「大将って……」

 

 「我らが大将と話したくば、まずは拙者たちを通してもらおうか」

 

 「……マヒロまで乗っからないでくれる? 話が進まないから」

 

 ギリスケが半ば冗談で胸を張り、なぜかマヒロまで腕を組んで仁王立ちする。

 

 「いやー、面白そうだったので、つい」

 

 この二人、想像以上に気が合うらしい。

 

 だが、今は笑っている場合ではない。

 

 アラガの視線は一切ぶれない。冗談を挟める空気ではなかった。

 

 「お前、勇者を目指してるとか言っていたな?」

 

 核心を、真っ直ぐに突いてくる。

 

 「……ああ」

 

 肯定すると、彼の眼差しがさらに冷えた気がした。

 

 「俺は魔王を殺せるだけの力を身につけるために、この学園に来た」

 

 淡々とした声色。

 

 だが、その奥にあるのは激情だ。

 

 「だから、勇者を目指しているお前は――俺にとって邪魔な存在でしかない」

 

 「なっ……!?」

 

 はっきりとした拒絶。

 

 陰で笑われるより、よほど鋭い一言だった。

 

 「おいおいおい、今のは聞き捨てならねえ――」

 

 「もしお前が本気で勇者を目指すというなら」

 

 「シカトかよ!?」

 

 ギリスケの抗議など、まるで耳に入っていない。

 

 周囲を視界に入れていないのか、それとも本当に興味がないのか。

 

 恐らく、後者だ。

 

 「俺が、お前を潰す」

 

 「ッ!?」

 

 背筋に、冷たいものが走った。

 

 脅しではない。

 

 本気だと分かるからこそ、ぞくりとする。

 

 これは挑発でも虚勢でもない。

 

 宣戦布告だ。

 

 「おい! いくらなんでも喧嘩売りすぎだろ!」

 

 「この学園で無事卒業したいなら――」

 

 「だから無視すんなって!」

 

 アラガはゆっくりと歩み寄ってくる。

 

 ギリスケの騒ぎ声を掻き分けるように、真っ直ぐこちらへ。

 

 目の前に立つと、さらに距離を詰めた。

 

 息がかかるほど近い。

 

 ――冷たい。

 

 気のせいではない。

 

 彼の吐息は、まるで氷のように冷えていた。

 

 耳元に顔を寄せ、周囲に聞こえるか聞こえないかの声量で囁く。

 

 「勇者なんて諦めて、青春ごっこでも楽しんでろ」

 

 胸の奥が、ぎり、と軋む。

 

 嘲りではない。

 

 切り捨てるような声音。

 

 用件は済んだと言わんばかりに、彼は身体を離し、そのまま立ち去ろうとする。

 

 なぜそこまで言う。

 

 なぜ俺が勇者を諦めなければならない。

 

 なぜ、そこまでして魔王を殺したい。

 

 分からない。

 

 彼の事情も、怒りの理由も、過去も。

 

 何一つ。

 

 だが――

 

 このまま背を向けられるわけにはいかない。

 

 「アラガ」

 

 思わず、名前を呼んでいた。

 

 足を止める白髪の背中。

 

 廊下の喧騒が遠のく。

 

 言わなければならないことがある。

 

 これは、俺自身のために。

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