転生勇者が死ぬまで10000日   作:慶名 安

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第5章ー24

 「俺は、友達を作りに来たわけでも、思い出を作りに来たわけでもねぇ」

 

 「……」

 

 「……サダメ……」

 

 アラガの思惑なんて知ったことか。

 

 あいつが何を抱えていようと、どんな過去を背負っていようと、それは俺の知るところじゃない。

 

 だからこそ、俺は自分の胸の内を、そのまま叩きつけた。

 

 「お前がなんで俺を敵視してるのかは分からない。けどな、俺だって勇者を目指すためにここにいるんだ。お前がどう思おうが、そこだけは絶対に曲げねぇ」

 

 言い切った。

 

 喉はひどく乾いている。けれど、不思議と声は震えなかった。

 

 アラガは無言でこちらを見つめている。

 

 表情は変わらない。

 

 感情の揺らぎを一切見せない、凍りつくような視線。

 

 昔の自分なら、その目を向けられただけで足がすくみ、言葉を飲み込んでいただろう。

 

 だが、今は違う。

 

 恐怖よりも、意地のほうが勝っていた。

 

 勇者になると決めたあの日から、引き返す道はない。

 

 「……はあ。そうか」

 

 小さなため息。

 

 それは落胆か、諦観か、それとも嘲笑か。

 

 判別できないまま、彼は踵を返した。

 

 ――終わったのか?

 

 そう思った、ほんの一瞬。

 

 「なら、お前は俺の敵だ」

 

 背中越しの声。

 

 一拍置いて、

 

 「いや――俺の目的を果たすための踏み台にしてやる」

 

 「ッ!?」

 

 その言葉は、背中に突き立てられた刃のようだった。

 

 冷たい。鋭い。容赦がない。

 

 これは挑発ではない。

 

 本気の宣戦布告だ。

 

 「おい、なーにが踏み台だー!」

 

 爆発したのは、俺よりもギリスケだった。

 

 「先にこいつに勇者になるって言われたから、同じこと言えなくて言い方変えただけのくせによ! 偉そうにしてんじゃねーぞ、黒歴史こじらせ野郎!」

 

 「ギ、ギリスケ! 声でかいって……!」

 

 「許せぬ!」

 

 間髪入れずにマヒロが前に出る。

 

 その目は完全に戦闘態勢だ。

 

 「其方! 今の発言、撤回せよ!」

 

 「ちょ、マヒロまで!? 刀抜くなって!」

 

 すでに柄に手をかけている。

 

 「離すでござる、ミオ! 友を侮辱され黙っているなど武士の恥! 撤回させるまで許さぬ!」

 

 「サダメも手伝って!? 押さえきれない!」

 

 廊下が一気に騒然となる。

 

 野次馬が増え、ひそひそ声が波のように広がっていく。

 

 まずい。

 

 初日から問題を起こせば、最悪退学だ。

 

 勇者どころか、この学園に居続けることすらできなくなる。

 

 それだけは絶対に避けなければならない。

 

 だが、ギリスケもマヒロも完全に火がついている。

 

 止めなければ。

 

 今すぐに。

 

 「……な」

 

 そのときだった。

 

 アラガが、低く何かを呟いた。

 

 「あ゛あ゛っ!? なんだって!? 聞こえねーよ、イタ眼帯野郎!」

 

 怒りに任せてギリスケが怒鳴り返す。

 

 その瞬間、アラガがゆっくりと振り返った。

 

 ――空気が、変わった。

 

 これまでの冷静な無表情とは違う。

 

 初めて、感情が露わになっていた。

 

 抑え込んでいた何かが、はっきりと顔を出す。

 

 怒り。

 

 それも、生半可なものではない。

 

 

 

            「うるせえな、虫けら共!」

 

 

 

 言葉と同時に、廊下の空気が凍りついた。

 

 比喩ではない。

 

 本当に温度が下がったかのような錯覚を覚える。

 

 ざわめきが止まる。

 

 笑い声が消える。

 

 誰もが息を呑んだ。

 

 廊下に満ちたのは、圧。

 

 濃密な敵意。

 

 そして――明確な殺気。

 

 ただの売り言葉ではない。

 

 本気で、心の底から見下している目だった。

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