現れた少女は、金髪のツインテールに小柄な体格――見た目だけなら小学生と見間違えそうなほど幼い。だが、鼻筋にかけられた少し変わったデザインの眼鏡と、ぶかぶかの白衣がその印象を打ち消している。
白衣の裾は膝近くまであり、袖も長めで手元が半分ほど隠れていた。
……生徒、だろうか。
それとも教師?
どちらにしても、空き教室でひとり作業しているあたり、ただ者ではなさそうだ。
「って、なんちゅー格好してるんすか!?」
思わず声が裏返る。
白衣に目を奪われていたが、よく見ると中は水玉模様の下着である。まるで水着のように見せびらかしているが、流石に質感が違っていてすぐに気づく。
「ん?」
少女はきょとんと首を傾げる。
まるで自分が何を驚いているのか分からない、と言わんばかりだ。
「ああ。この白衣はね、独自改良型で暖房性能が非常に高いんだ。断熱・蓄熱・温度調整機能つき。最早、制服など不要さ!」
得意げに胸を張る。
どうやら白衣そのものが高性能らしい。
「……は、はあ」
理屈は分かる。
だが、もう少し常識的な格好というものがあるのではないだろうか。
防寒性能に全振りした結果、見た目への配慮が置き去りになっている気がする。
この学園の女性陣は、もしかして羞恥心という概念をどこかに預けてきているのだろうか。
「それで、話を戻すけど。ここに何か用かな?」
少女は自然な動作でしゃがみ込み、尻餅をついたままの自分を覗き込む。
距離が近い。
視線の高さもほぼ同じになる。
冷静になれ、自分。
状況を客観視すると色々おかしいが、深く考えると余計に混乱する。
「い、いえ。用事というほどでは……ただ、物音が聞こえたので、何をしているのか気になって」
できるだけ誠実に答える。
嘘は言っていない。
少女はしばし無言でこちらを観察していた。
その瞳は、幼い見た目に反して妙に鋭い。何かを測るような、分析するような視線だ。
……やはり只者ではない。
「なるほど。私の作業内容に興味がある、と」
「は、はい。そうなります」
数秒の沈黙の後、彼女は満足げに頷いた。
そして立ち上がる。
「入ってきなよ。好奇心は研究者の第一条件だ。歓迎する。お茶でも淹れようか?」
「え、あ……ありがとうございます」
思いがけない歓迎に戸惑いつつも、立ち上がる。
許可をもらえた以上、遠慮する理由はない。
それに――正直、興味はある。
この世界の“パソコン”がどんなものなのか。
彼女が何をしているのか。
白衣の少女は教室の奥へと戻り、自分はその後を追うように一歩踏み出す。
「おっと、そうだ」
不意に、彼女が足を止めた。
入り口でくるりと振り返る。
何か忘れ物でもしたのだろうか。
「私、二年のソンジ・マートスだ。よろしく」
唐突な自己紹介。
そして、すっと差し出される小さな手。
その仕草は堂々としていて、妙な自信に満ちていた。