「……これって、もしかして……」
壁一面を埋め尽くすほどに並べられた大量のモニターを前に、思わず声が漏れる。
こんな光景は初めて見た。
大小さまざまな画面が整然と配置され、まるでどこかの管制室か、あるいは金融トレーダーの作業部屋のようだ。正直、こういう“多画面環境”には密かな憧れがあった。
「おや? その反応だと、心当たりがあるみたいだね」
ソンジさんが楽しげに目を細める。
「このモニターって、全部使えるんですか?」
「もちろん。全部現役だよ。作業内容に応じて表示を切り替えている。まあ、同時にフル稼働させることはあまりないけどね」
「へえ……」
感嘆の声が自然と漏れる。
現在稼働しているのは三台。そのうち二台はホーム画面のままで、実際に使用しているのは中央の一台だけのようだ。そこにはびっしりと文字列が並び、何らかのプログラムか文書データが表示されている。
レイアウトはどこか見覚えがある。
まるで前世で見慣れたワープロソフトのようだ。
まさか、この世界でここまで再現されているとは。
もしかして、自分と同じように“別の世界の記憶”を持つ人物がいるのだろうか。
あるいは、偶然似た発展を遂げただけなのか。
頭の中で様々な仮説が浮かんでは消える。
「けど、これだけのモニターを使って、何をしているんです?」
素直な疑問をぶつける。
するとソンジさんは、待っていましたと言わんばかりににやりと笑った。
「当然そこが気になるよね」
彼女はくるりと踵を返し、部屋の隅に置かれた電気ポットのもとへ向かう。
慣れた手つきで二人分の湯を沸かし、茶葉を入れ、カップに注ぐ。その動作は妙に様になっていた。
やがて、小さなテーブルの上にティーカップが二つ並ぶ。
「話は長くなる。座って聞くといい」
差し出されたカップを受け取り、軽く礼を言う。湯気の立つ紅茶を一口すすると、緊張が少し和らいだ。
「まず、私がなぜ特待生としてこの学園にいるのか。その理由から話そう」
「はあ……」
急に語り部のような口調になる。
「私はソワレルの出身だ。貴族ではないが、それなりに裕福な家で育った」
「へえ、そうなんですか」
適度に相槌を打ちながら耳を傾ける。
「幼い頃から欲しいものは大抵与えられた。最新の魔導玩具、知育装置、試作型の演算端末……」
さらっと凄い単語が並ぶ。
「でもね、どれも単純すぎた。与えられるだけの遊びは、刺激が足りなかった」
彼女はカップを持つ手をくるりと回しながら続ける。
「そこで考えたんだ。だったら、自分で“本当に面白いもの”を作ればいいんじゃないか、と」
「それは……すごい発想ですね」
普通なら飽きたら次を買ってもらうだけだろう。
だが彼女は“自分で作る”という方向に進んだ。
その発想力と実行力は並大抵ではない。
「試作と改良を繰り返し、魔導回路と演算装置を組み合わせて……そして完成させた」
ソンジさんは、背後のモニター群を指し示す。
画面には複雑なコードと、色鮮やかな図形データが映し出されていた。
「それが、今ここにある私の研究成果」
一拍置いて、彼女は言った。
「テレビゲームだ」
「……え?」