転生勇者が死ぬまで10000日   作:慶名 安

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第5章ー32

 「……これって、もしかして……」

 

 壁一面を埋め尽くすほどに並べられた大量のモニターを前に、思わず声が漏れる。

 

 こんな光景は初めて見た。

 

 大小さまざまな画面が整然と配置され、まるでどこかの管制室か、あるいは金融トレーダーの作業部屋のようだ。正直、こういう“多画面環境”には密かな憧れがあった。

 

 「おや? その反応だと、心当たりがあるみたいだね」

 

 ソンジさんが楽しげに目を細める。

 

 「このモニターって、全部使えるんですか?」

 

 「もちろん。全部現役だよ。作業内容に応じて表示を切り替えている。まあ、同時にフル稼働させることはあまりないけどね」

 

 「へえ……」

 

 感嘆の声が自然と漏れる。

 

 現在稼働しているのは三台。そのうち二台はホーム画面のままで、実際に使用しているのは中央の一台だけのようだ。そこにはびっしりと文字列が並び、何らかのプログラムか文書データが表示されている。

 

 レイアウトはどこか見覚えがある。

 

 まるで前世で見慣れたワープロソフトのようだ。

 

 まさか、この世界でここまで再現されているとは。

 

 もしかして、自分と同じように“別の世界の記憶”を持つ人物がいるのだろうか。

 

 あるいは、偶然似た発展を遂げただけなのか。

 

 頭の中で様々な仮説が浮かんでは消える。

 

 「けど、これだけのモニターを使って、何をしているんです?」

 

 素直な疑問をぶつける。

 

 するとソンジさんは、待っていましたと言わんばかりににやりと笑った。

 

 「当然そこが気になるよね」

 

 彼女はくるりと踵を返し、部屋の隅に置かれた電気ポットのもとへ向かう。

 

 慣れた手つきで二人分の湯を沸かし、茶葉を入れ、カップに注ぐ。その動作は妙に様になっていた。

 

 やがて、小さなテーブルの上にティーカップが二つ並ぶ。

 

 「話は長くなる。座って聞くといい」

 

 差し出されたカップを受け取り、軽く礼を言う。湯気の立つ紅茶を一口すすると、緊張が少し和らいだ。

 

 「まず、私がなぜ特待生としてこの学園にいるのか。その理由から話そう」

 

 「はあ……」

 

 急に語り部のような口調になる。

 

 「私はソワレルの出身だ。貴族ではないが、それなりに裕福な家で育った」

 

 「へえ、そうなんですか」

 

 適度に相槌を打ちながら耳を傾ける。

 

 「幼い頃から欲しいものは大抵与えられた。最新の魔導玩具、知育装置、試作型の演算端末……」

 

 さらっと凄い単語が並ぶ。

 

 「でもね、どれも単純すぎた。与えられるだけの遊びは、刺激が足りなかった」

 

 彼女はカップを持つ手をくるりと回しながら続ける。

 

 「そこで考えたんだ。だったら、自分で“本当に面白いもの”を作ればいいんじゃないか、と」

 

 「それは……すごい発想ですね」

 

 普通なら飽きたら次を買ってもらうだけだろう。

 

 だが彼女は“自分で作る”という方向に進んだ。

 

 その発想力と実行力は並大抵ではない。

 

 「試作と改良を繰り返し、魔導回路と演算装置を組み合わせて……そして完成させた」

 

 ソンジさんは、背後のモニター群を指し示す。

 

 画面には複雑なコードと、色鮮やかな図形データが映し出されていた。

 

 「それが、今ここにある私の研究成果」

 

 一拍置いて、彼女は言った。

 

 「テレビゲームだ」

 

 「……え?」

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