「ぶっ!? げほっ、げほっ!」
あまりにも唐突な一言に、飲みかけていた紅茶を思いきり吹き出してしまう。喉に入り、激しく咳き込む自分を見て、ソンジさんは呆れたように肩をすくめた。
「あーあー、もったいない」
そう言いながら、近くにあった布巾で手際よくテーブルを拭いていく。動作が妙に慣れているのが腹立たしい。
「ど、どうして……そう思ったんですか?」
必死に咳を落ち着けながら問い返す。
「その反応がもう答え合わせみたいなものだよ」
彼女はにやりと笑う。
「なんというかね、君の反応や態度に“違和感”があった。この世界の住人にしては妙に察しがいい。モニターを見ても驚きはしていたけど、理解が早すぎる。ゲームの話でも冷静だった。まるで前から知っていたかのようにね」
「妙な感じ……」
確かに、会話の端々で前世の知識を前提にしてしまっていた自覚はある。油断していたと言えばそれまでだ。
「……ってことは、ソンジさんも?」
恐る恐る尋ねる。
すると彼女は胸に手を当て、わざとらしく名乗りを上げた。
「白石化奈、二十八歳。元・研究施設勤務の研究員。独身だ」
「二十八……」
自分より一歳上だ。
研究員といっても分野は広いが、少なくとも理系エリートであることは間違いないだろう。
「岩倉運命、二十七歳。フリーターで地元のスーパー勤務でした」
自分も名乗る。
「おお、前世と同じ名前か! それは面白い偶然だね。しかも歳も近いし、同じ独身とは」
彼女は楽しそうに笑い、勢いよく立ち上がって握手を求めてきた。
「異世界再会記念だ!」
半ば流される形で握手を交わす。
「ちなみに、私は今もフリーだ。これも何かの縁。もし君にその気があるなら、歓迎するよ?」
軽口の延長のような声音。
「は、はあ……」
曖昧に笑ってごまかす。
冗談半分なのは分かるが、距離が近い。テンポが速い。
「その困った顔は何だい? 私、そんなにナシか?」
「いや、そういうわけじゃ……」
ぐい、と距離を詰められ、思わず一歩引く。
魅力的であることは否定できない。整った顔立ちに、研究者らしい鋭さ。だが今はそれどころではない。
「まあまあ、冗談だよ」
くすっと笑い、彼女はようやく距離を取った。
どうやらからかわれていたらしい。
「それより、同郷のよしみだ。協力し合えることもあるだろう?」
空気が少し落ち着く。
「確かに……」
前世の知識を共有できる相手がいる。
それは心強い。
「この世界で“外の常識”を知っている者は少ない。だからこそ、私は君と話したかった」
真面目な声音に変わる。
「技術は力だ。だが、使い方を誤れば危険でもある。君はどう思う?」
「……慎重に扱うべきだと思います」
自然と真剣な会話になる。
それから夕暮れまで、二人で前世の文化や技術、この世界との違いについて語り合った。