転生勇者が死ぬまで10000日   作:慶名 安

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第5章ー34

 「ぶっ!? げほっ、げほっ!」

 

 あまりにも唐突な一言に、飲みかけていた紅茶を思いきり吹き出してしまう。喉に入り、激しく咳き込む自分を見て、ソンジさんは呆れたように肩をすくめた。

 

 「あーあー、もったいない」

 

 そう言いながら、近くにあった布巾で手際よくテーブルを拭いていく。動作が妙に慣れているのが腹立たしい。

 

 「ど、どうして……そう思ったんですか?」

 

 必死に咳を落ち着けながら問い返す。

 

 「その反応がもう答え合わせみたいなものだよ」

 

 彼女はにやりと笑う。

 

 「なんというかね、君の反応や態度に“違和感”があった。この世界の住人にしては妙に察しがいい。モニターを見ても驚きはしていたけど、理解が早すぎる。ゲームの話でも冷静だった。まるで前から知っていたかのようにね」

 

 「妙な感じ……」

 

 確かに、会話の端々で前世の知識を前提にしてしまっていた自覚はある。油断していたと言えばそれまでだ。

 

 「……ってことは、ソンジさんも?」

 

 恐る恐る尋ねる。

 

 すると彼女は胸に手を当て、わざとらしく名乗りを上げた。

 

 「白石化奈、二十八歳。元・研究施設勤務の研究員。独身だ」

 

 「二十八……」

 

 自分より一歳上だ。

 

 研究員といっても分野は広いが、少なくとも理系エリートであることは間違いないだろう。

 

 「岩倉運命、二十七歳。フリーターで地元のスーパー勤務でした」

 

 自分も名乗る。

 

 「おお、前世と同じ名前か! それは面白い偶然だね。しかも歳も近いし、同じ独身とは」

 

 彼女は楽しそうに笑い、勢いよく立ち上がって握手を求めてきた。

 

 「異世界再会記念だ!」

 

 半ば流される形で握手を交わす。

 

 「ちなみに、私は今もフリーだ。これも何かの縁。もし君にその気があるなら、歓迎するよ?」

 

 軽口の延長のような声音。

 

 「は、はあ……」

 

 曖昧に笑ってごまかす。

 

 冗談半分なのは分かるが、距離が近い。テンポが速い。

 

 「その困った顔は何だい? 私、そんなにナシか?」

 

 「いや、そういうわけじゃ……」

 

 ぐい、と距離を詰められ、思わず一歩引く。

 

 魅力的であることは否定できない。整った顔立ちに、研究者らしい鋭さ。だが今はそれどころではない。

 

 「まあまあ、冗談だよ」

 

 くすっと笑い、彼女はようやく距離を取った。

 

 どうやらからかわれていたらしい。

 

 「それより、同郷のよしみだ。協力し合えることもあるだろう?」

 

 空気が少し落ち着く。

 

 「確かに……」

 

 前世の知識を共有できる相手がいる。

 

 それは心強い。

 

 「この世界で“外の常識”を知っている者は少ない。だからこそ、私は君と話したかった」

 

 真面目な声音に変わる。

 

 「技術は力だ。だが、使い方を誤れば危険でもある。君はどう思う?」

 

 「……慎重に扱うべきだと思います」

 

 自然と真剣な会話になる。

 

 それから夕暮れまで、二人で前世の文化や技術、この世界との違いについて語り合った。

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