転生勇者が死ぬまで10000日   作:慶名 安

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第5章ー35

 気がつけば終業のチャイムが鳴り、校内の閉門時間も目前に迫っていた。

 自分はソンジさんと並んで、夕暮れの校門へと向かって歩いている。

 

 「それにしても……帰りは普通に制服なんですね?」

 

 隣を歩く彼女に、ついそんなことを聞いてしまう。

 研究室を出る直前まで白衣姿だったはずなのに、今は何食わぬ顔で学園の制服をきちんと着こなしているのだから、その落差に戸惑うのも無理はない。

 

 「君は私を何だと思っているんだい?」

 

 じとっとした視線が向けられる。

 

 「さすがに公共の場をあんな格好で歩くほど非常識じゃないさ」

 

 「ですよね……」

 

 むしろ研究室内であの格好なのはどうなんだ、という疑問が喉元まで出かかったが、飲み込む。

 

 すると彼女は、ふっと悪戯っぽく笑った。

 

 「それはそうと。あの姿を見たのは君が初めてだ。これは責任を取ってもらわないといけないかもしれないな」

 

 「え゛っ!?」

 

 思わず変な声が出る。

 

 向こうから見せてきたはずなのに、なぜこちらが責任を負う流れになるのか。

 

 「ははは、冗談だよ。そんなに慌てるな」

 

 からからと笑う彼女に、ようやく胸を撫で下ろす。

 

 「冗談、ですよね……」

 

 「そこまで鬼じゃないさ」

 

 どうやら本気ではないらしい。

 まったく、人をからかうのが好きな人だ。

 

 校門を出たところで、彼女はふと思い出したように立ち止まった。

 

 「あ、そうだ。同郷の人間と出会えた記念だ。これをあげよう」

 

 差し出されたのは、手のひらサイズの長方形の機器。

 ガラスのような滑らかな表面に、側面にはボタンらしきものが付いている。

 

 「……これって」

 

 見覚えのある感触。

 懐かしさが胸に込み上げる。

 

 「スマートフォンさ。今のところ通話とメッセージ機能しか入れていないがね」

 

 「ッ!? これ、もらっていいんですか!?」

 

 思わず声が上ずる。

 

 「ああ。私と君が出会った証だ。私の連絡先も登録済みだ。何かあれば連絡するといい」

 

 スマートフォン。

 

 異世界で再び手にする日が来るとは思わなかった。

 技術的にも貴重なはずだ。それを自分に渡してくれるとは。

 

 「……ありがとうございます」

 

 自然と頭が下がる。

 

 「試しに電源を入れてみな」

 

 「はい、えっと……ここですね」

 

 久々の感触に胸が高鳴る。

 ボタンを押すと、数秒後に起動画面が表示された。

 

 ロゴ、アニメーション、読み込み表示。

 どれも丁寧に再現されている。

 

 「すごい……」

 

 感嘆の声が漏れる。

 

 やがてホーム画面が表示され――

 

 「……ん?」

 

 背景画像を見た瞬間、固まった。

 

 そこに映っていたのは、別の下着姿のソンジさん本人の写真だった。恐らく自室で撮ってあるのだろう。白衣も着てないし。

 

 「はははは、それを私だと思って大事に使ってくれよ、サダメ君」

 

 「……は、はい……」

 

 どうやら壁紙は現時点では変更不可らしい。

 

 なんとも言えない気持ちを抱えつつも、スマートフォンを握りしめる。

 

 夕焼け空の下、橙色に染まる街並みを眺めながら思う。

 

 異世界で再び手にした“文明の欠片”。

 それは単なる通信機器以上の意味を持っている。

 

 この出会いが偶然なのか必然なのかは分からない。

 だが確実に、自分の運命は大きく動き始めている。

 

 ――転生勇者が死ぬまで、残り4097日。

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