翌日。魔法学の授業が始まった――のだが。
「はあ……はあ……はあ……」
荒い呼吸と、草を踏みしめる足音が野原に響く。
『ほらほらー! もっと走れ走れー!』
拡声器越しに飛んでくる、やる気の欠片も感じられない声。
今日の担当はコールスタッシュ先生だ。
しかし授業内容は昨日と寸分違わず、ひたすら野原を走るだけだった。
「ぜえ……ぜえ……なんで……魔法の授業で……こんな走らされてんだよ、俺たち……」
隣を走るギリスケが、途切れ途切れに愚痴をこぼす。
その気持ちはよく分かる。周囲を見渡せば、他の生徒たちも同じように不満を漏らしながら走っている。自分も正直、二日連続はきつい。
『昨日な、オーヴェン先生からありがたいご指摘をいただいてな。“どいつもこいつも基礎体力がなってねぇ!”だとよ』
先生はのんびりした調子で続ける。
『だからまずは徹底的に体力づくりから始めることにした』
なるほど、言いそうではある。
オーヴェン先生の顔を思い浮かべれば、違和感はない。
だが、それにしてもだ。
魔法を学ぶ場で、二日連続の走り込み。
まるで校内マラソン大会前の体育の授業である。
当然、生徒たちからは不満の声が上がる。
「ええー……」「また走るのかよ……」
野原に広がるブーイング。
『……はあ、めんどくせーな』
先生は頭をかき、煙草をくわえた。
『分かった分かった。ちゃんと説明してやるから、全員集合!』
数分後、一年生は先生の前に整列した。
コールスタッシュ先生は煙草を指に挟み、面倒くさそうに煙を吐いている。今日は酒瓶は見当たらないが、生徒の前で堂々と喫煙する教師というのもなかなか豪胆だ。
「いいかお前ら。俺の貴重な時間を使って講習してやる。一回で理解しろ。二度は言わん。理解できなかった奴はぶっ殺す」
開始早々、物騒な前置きである。
時代が違えば確実に問題視される発言だろう。
というか、今でも十分問題ではないかと思う。
「まず、なぜ基礎体力が必要かだ。答えは単純。魔法を扱うには体力が必要不可欠だからだ」
その言葉に、ギリスケがすぐさま手を挙げる。
「でも先生、俺たち普通に魔法使えてますよ?」
確かにその通りだ。
自分もこれまで何度も魔法を行使してきた。連続使用すれば疲労は感じるが、体力不足が致命的だと感じたことはない。
先生は煙草をくわえ直し、じろりと睨む。
「おい。話の腰を折るな。最後まで聞け。ぶっ殺すぞ」
「……えぇ…」
ギリスケが渋々手を下ろす。
ギリスケを一蹴した先生はそのまま話を続けた。