「魔法ってのはな、いわば“運動”の一種みたいなもんだ」
コールスタッシュ先生は腕を組み、気だるげに言い放った。
「走る、跳ぶ、投げる、蹴る、泳ぐ。それと同じだ。身体を使えば疲れるし、疲れりゃパフォーマンスは落ちる」
「パフォーマンス……ですか?」
聞き慣れない横文字に、数人が首を傾げる。
「あー、説明すんのも面倒だな。実際に見せた方が早ぇ」
流石にそこまで説明するのが面倒になったのか、先生は周囲を見回し、やがて指を突きつけた。
「おい、そこの赤髪。立て」
「……俺、ですか?」
思わず自分を指差す。
「ここに赤髪はお前しかいねぇだろ。さっさと立て」
相変わらず口調が物騒だ。
というか、せめて名前で呼んでほしい。だが、入学初日の自己紹介は二日酔いで聞いていなかったのを思い出し、内心で溜め息をつきつつも、言われた通りに立ち上がった。
「お前、見たところ体力はそこそこあるようだな。だが、昨日今日二日連続の走り込みだ。疲労はそれなりに溜まってるだろ?」
「……まあ、一応は」
正直に言えば脚は重いし、息もまだ整いきっていない。けど、もう動けなくなるほどではなかった。
「よし。じゃあ、あそこに向かって魔法を撃て」
「えっ、撃っていいんですか?」
「ああ。好きな魔法でいい。ただし、周囲に被害は出すなよ」
半ば実験台扱いだが、断る理由もなく、先生の言われた通りに行動する。
野原の何もない方向を確認し、右手を前に突き出す。
周囲に被害を出さないよう威力は抑えめに。三……いや四割程度ならまあ問題ないだろう。
深く息を吸い、詠唱を紡ぐ。
「爆ぜる焔よ、火の球として聚合し、眼前の標的に猛る一投を放て――【火球《フレール》】!」
掌に凝縮された炎が形を成し、野球ボールほどの火球が生まれる。
初速は悪くない。
火球は一直線に野原を駆け――
「……あれ?」
る筈だった。だが、およそ五十メートルも進まないうちに、ふっと輪郭が揺らいだ。
次の瞬間、火球は空中で霧のように掻き消える。
誰にも当たっていない。障害物もない。
にもかかわらず、自然消滅した。
「……」
周囲がざわつく。
威力は抑えたが、途中で消えるほど弱くはしていない。詠唱も、魔力の練りも、イメージも――どれもいつも通りのはずだ。特段違ったことはしていない。
「今、なんで消えたか分かるか?」
先生が問う。
「い、いえ……」
首を横に振るしかない。
先生は煙草の煙をゆっくり吐き出し、面倒くさそうに続けた。
「答えは単純だ。肉体への疲労だ」