転生勇者が死ぬまで10000日   作:慶名 安

174 / 234
第5章ー37

 「魔法ってのはな、いわば“運動”の一種みたいなもんだ」

 

 コールスタッシュ先生は腕を組み、気だるげに言い放った。

 

 「走る、跳ぶ、投げる、蹴る、泳ぐ。それと同じだ。身体を使えば疲れるし、疲れりゃパフォーマンスは落ちる」

 

 「パフォーマンス……ですか?」

 

 聞き慣れない横文字に、数人が首を傾げる。

 

 「あー、説明すんのも面倒だな。実際に見せた方が早ぇ」

 

 流石にそこまで説明するのが面倒になったのか、先生は周囲を見回し、やがて指を突きつけた。

 

 「おい、そこの赤髪。立て」

 

 「……俺、ですか?」

 

 思わず自分を指差す。

 

 「ここに赤髪はお前しかいねぇだろ。さっさと立て」

 

 相変わらず口調が物騒だ。

 というか、せめて名前で呼んでほしい。だが、入学初日の自己紹介は二日酔いで聞いていなかったのを思い出し、内心で溜め息をつきつつも、言われた通りに立ち上がった。

 

 「お前、見たところ体力はそこそこあるようだな。だが、昨日今日二日連続の走り込みだ。疲労はそれなりに溜まってるだろ?」

 

 「……まあ、一応は」

 

 正直に言えば脚は重いし、息もまだ整いきっていない。けど、もう動けなくなるほどではなかった。

 

 「よし。じゃあ、あそこに向かって魔法を撃て」

 

 「えっ、撃っていいんですか?」

 

 「ああ。好きな魔法でいい。ただし、周囲に被害は出すなよ」

 

 半ば実験台扱いだが、断る理由もなく、先生の言われた通りに行動する。

 

 野原の何もない方向を確認し、右手を前に突き出す。

 周囲に被害を出さないよう威力は抑えめに。三……いや四割程度ならまあ問題ないだろう。

 

 深く息を吸い、詠唱を紡ぐ。

 

 「爆ぜる焔よ、火の球として聚合し、眼前の標的に猛る一投を放て――【火球《フレール》】!」

 

 掌に凝縮された炎が形を成し、野球ボールほどの火球が生まれる。

 

 初速は悪くない。

 火球は一直線に野原を駆け――

 

 「……あれ?」

 

 る筈だった。だが、およそ五十メートルも進まないうちに、ふっと輪郭が揺らいだ。

 

 次の瞬間、火球は空中で霧のように掻き消える。

 

 誰にも当たっていない。障害物もない。

 にもかかわらず、自然消滅した。

 

 「……」

 

 周囲がざわつく。

 

 威力は抑えたが、途中で消えるほど弱くはしていない。詠唱も、魔力の練りも、イメージも――どれもいつも通りのはずだ。特段違ったことはしていない。

 

 「今、なんで消えたか分かるか?」

 

 先生が問う。

 

 「い、いえ……」

 

 首を横に振るしかない。

 

 先生は煙草の煙をゆっくり吐き出し、面倒くさそうに続けた。

 

 「答えは単純だ。肉体への疲労だ」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。