転生勇者が死ぬまで10000日   作:慶名 安

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第5章ー38

 「疲労……ですか?」

 

 思わず聞き返すと、コールスタッシュ先生は当然だろうと言わんばかりに頷いた。

 

 「ああ。肉体は疲労が蓄積すると、著しく活動効率が落ちる。疲れたまま走れば、いつもより早く息が上がるし、脚も重くなるだろ? それが“パフォーマンスが下がる”ってことだ」

 

 煙を吐き出しながら、淡々と続ける。

 

 「同じことが魔法にも言える。疲れた状態で撃てば、威力も精度も維持力も落ちる。そんなコンディションで、通常の魔法学の授業をまともに受けられると思うか?」

 

 「……」

 

 返す言葉が出ない。

 

 「授業は週五日だ。午前の講義だけでも相当体力を使う。今のお前らの基礎体力じゃ、今後行かされる派遣任務どころか、授業についていくことすら怪しくなるぞ」

 

 先生は珍しく真顔だった。

 ふざけた様子も、からかう気配もない。

 

 先ほど自分が撃った火球。

 あれが何よりの証明だ。

 

 思い返せば、ドレーカ村から脱出できたのも、幼かったからこそだったのかもしれない。精神的にも肉体的にも過酷な状況だったはずなのに、あの頃は不思議と動けた。今よりもずっと無茶がきいた。

 

 それに比べてどうだ。

 たった二日走り込んだだけで、この疲労感。

 

 幼子の体力の底知れなさを、今さらながら思い知らされる。

 

 「とにかく、今お前らに必要なのは基礎体力の向上だ」

 

 先生は指を一本立てる。

 

 「基礎体力を上げるには走り込みが一番手っ取り早い。一に体力、二に体力、三四がなくて五も体力だ。今はそれだけ覚えとけ」

 

 思わず苦笑しそうになる語呂だが、不思議と説得力はある。

 

 「……はい!」

 

 自然と背筋が伸び、大きな返事が揃った。

 

 粗暴で口は悪いが、生徒のことを考えていないわけではない。

 むしろ実戦を見据えた現実的な指導だ。

 

 名門校と呼ばれる理由の一端を、少しだけ理解した気がした。

 

 ――と、そのとき。

 

 「……とはいえ」

 

 先生がぽつりと付け加える。

 

 「優秀な人材まで同じメニューで縛るのも効率が悪い。今から軽いテストをする」

 

 「テスト?」

 

 ざわりと空気が揺れる。

 

 「内容は簡単だ。魔法を使え。俺が“問題なし”と判断したら合格。合格者は走り込み免除だ」

 

 「ッ!?」

 

 一瞬で場の空気が変わった。

 

 走らなくて済む――その甘美な響き。

 だが同時に、己の力量を晒す緊張感が胸を締め付ける。

 

 「合否は俺の裁量だ。威力でも精度でも応用でも何でもいい。ただし、しょうもねぇ魔法を見せたら問答無用で追加走りだ」

 

 なるほど。

 さきほどの火球では到底通らない。

 

 威力ではなく、制御や安定性を見せるべきか。光球なら維持時間で勝負できるかもしれない――

 

 そう思い、気合を入れ直した瞬間。

 

 「あと、お前は走り込み確定な。赤髪」

 

 「え゛っ?!」

 

 間の抜けた声が野原に響く。

 

 「“え゛っ?”じゃねぇよ。さっきあんなもん見せといて、“次はイケるかも”とか思ってねぇだろうな?」

 

 「い、いや……次はちゃんとやれば……」

 

 「確定だ。い・い・な?」

 

 鋭い睨みが飛んでくる。

 

 「……はい……」

 

 こうして、自分の不合格は正式に宣告された。

 

 まだテストも始まっていないはずなのに、なぜか除外である。

 

 周囲から同情と苦笑が混じった視線を感じながら、肩を落とす。

 

 ――アレ? これで三日連続で厄日なのでは?

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