「疲労……ですか?」
思わず聞き返すと、コールスタッシュ先生は当然だろうと言わんばかりに頷いた。
「ああ。肉体は疲労が蓄積すると、著しく活動効率が落ちる。疲れたまま走れば、いつもより早く息が上がるし、脚も重くなるだろ? それが“パフォーマンスが下がる”ってことだ」
煙を吐き出しながら、淡々と続ける。
「同じことが魔法にも言える。疲れた状態で撃てば、威力も精度も維持力も落ちる。そんなコンディションで、通常の魔法学の授業をまともに受けられると思うか?」
「……」
返す言葉が出ない。
「授業は週五日だ。午前の講義だけでも相当体力を使う。今のお前らの基礎体力じゃ、今後行かされる派遣任務どころか、授業についていくことすら怪しくなるぞ」
先生は珍しく真顔だった。
ふざけた様子も、からかう気配もない。
先ほど自分が撃った火球。
あれが何よりの証明だ。
思い返せば、ドレーカ村から脱出できたのも、幼かったからこそだったのかもしれない。精神的にも肉体的にも過酷な状況だったはずなのに、あの頃は不思議と動けた。今よりもずっと無茶がきいた。
それに比べてどうだ。
たった二日走り込んだだけで、この疲労感。
幼子の体力の底知れなさを、今さらながら思い知らされる。
「とにかく、今お前らに必要なのは基礎体力の向上だ」
先生は指を一本立てる。
「基礎体力を上げるには走り込みが一番手っ取り早い。一に体力、二に体力、三四がなくて五も体力だ。今はそれだけ覚えとけ」
思わず苦笑しそうになる語呂だが、不思議と説得力はある。
「……はい!」
自然と背筋が伸び、大きな返事が揃った。
粗暴で口は悪いが、生徒のことを考えていないわけではない。
むしろ実戦を見据えた現実的な指導だ。
名門校と呼ばれる理由の一端を、少しだけ理解した気がした。
――と、そのとき。
「……とはいえ」
先生がぽつりと付け加える。
「優秀な人材まで同じメニューで縛るのも効率が悪い。今から軽いテストをする」
「テスト?」
ざわりと空気が揺れる。
「内容は簡単だ。魔法を使え。俺が“問題なし”と判断したら合格。合格者は走り込み免除だ」
「ッ!?」
一瞬で場の空気が変わった。
走らなくて済む――その甘美な響き。
だが同時に、己の力量を晒す緊張感が胸を締め付ける。
「合否は俺の裁量だ。威力でも精度でも応用でも何でもいい。ただし、しょうもねぇ魔法を見せたら問答無用で追加走りだ」
なるほど。
さきほどの火球では到底通らない。
威力ではなく、制御や安定性を見せるべきか。光球なら維持時間で勝負できるかもしれない――
そう思い、気合を入れ直した瞬間。
「あと、お前は走り込み確定な。赤髪」
「え゛っ?!」
間の抜けた声が野原に響く。
「“え゛っ?”じゃねぇよ。さっきあんなもん見せといて、“次はイケるかも”とか思ってねぇだろうな?」
「い、いや……次はちゃんとやれば……」
「確定だ。い・い・な?」
鋭い睨みが飛んでくる。
「……はい……」
こうして、自分の不合格は正式に宣告された。
まだテストも始まっていないはずなのに、なぜか除外である。
周囲から同情と苦笑が混じった視線を感じながら、肩を落とす。
――アレ? これで三日連続で厄日なのでは?