転生勇者が死ぬまで10000日   作:慶名 安

176 / 243
第5章ー39

 「はあ……はあ……ど、どうですか……?」

 

 荒い息のまま問いかける生徒に、コールスタッシュ先生は煙を吐きながら短く答える。

 

 「……ふー。駄目だ。不合格」

 

 「くっそー!?」

 

 歓声と落胆が交互に響く。

 

 テストは想像以上に盛り上がっていた。

 合格すれば走り込み免除。不合格なら追加メニュー。単純明快だからこそ、皆の感情はむき出しだ。

 

 そんな中、自分は少し離れた場所で体育座りをしながら、その様子を眺めていた。

 

 ――走り込み確定。

 

 開始前に言い渡された烙印のせいで、参加資格すらない。

 

 真剣勝負のはずなのに、どこか楽しそうに見えてしまう。

 悔しいはずなのに、羨ましいと思っている自分がいる。

 

 指先で草をいじりながら、ただ黙って見守ることしかできなかった。

 

 「よし、次ぃ!」

 

 「は、はい!」

 

 呼ばれたのはミオだった。

 

 昨日今日の走り込みで、彼女は自分以上に消耗しているように見える。顔色も万全とは言い難い。

 

 ――大丈夫だろうか。

 

 そう思う一方で、昨日彼女の魔法に吹き飛ばされた自分が心配するのも妙な話だ、と苦笑する。

 

 「……ふー」

 

 彼女は一度、深く息を吸った。

 

 右手を前に構える。

 

 ミオが扱えるのは二種類の魔法。

 治癒魔法と風魔法。

 

 治癒は発動までに集中を要する。今の疲労状態では分が悪い。

 となれば――

 

 「はあああああ!」

 

 やはり風魔法だった。

 

 右手の周囲に空気が渦を巻き、風の塊が形成されていく。昨日自分に叩きつけたものより、やや大きい。

 

 いける――

 

 そう思った瞬間。

 

 「ッ……はあ、はあ……」

 

 風の塊が、不意に揺らいだ。

 

 次の瞬間、霧散。

 

 彼女は膝に手をつき、肩で息をしている。額には汗が滲み、表情は苦しそうだ。

 

 「……不合格」

 

 先生の声は淡々としていた。

 

 「それ以前に、詠唱も呼称もまともに行っていない。ただ魔力を垂れ流しているだけだ。論外だな」

 

 「ッ……!」

 

 ミオの肩が小さく震える。

 

 その言葉は、魔法の失敗以上に重い。

 

 「……ミオ……」

 

 思わず名を呼ぶが、届かない。

 

 確かに先生の言う通りだ。

 彼女はこれまで、明確な詠唱や呼称を用いずに風を生み出してきた。才能ゆえの荒技。だがそれは同時に、無駄な消費を伴う危うい方法でもある。

 

 ドレーカ村にいた頃は、それでも問題なかった。

 幼さゆえの底知れぬ体力と、勢いがあったから。

 

 だが今は違う。

 

 膝に手をつき、苦しげに息を整える彼女の姿が、その現実を突きつけていた。

 

 衰えた――というより、成長した身体に技術が追いついていないのだろう。

 

 彼女自身が、それを一番痛感しているはずだ。

 

 「よし、次ぃ!」

 

 ミオが静かに下がる。

 

 次に前へ出たのは――

 

 「うむ! 次は拙者の番でござるな!」

 

 場の空気を読まない、いや読まないのではなく吹き飛ばす勢いの声。

 

 マヒロだ。

 

 周囲が疲労で沈んでいる中、彼女だけ妙に元気である。背筋は伸び、目も爛々としている。疲れを感じさせない。

 

 「始めろ」

 

 先生が短く言う。

 

 「あっ、拙者は魔剣を扱うゆえ、魔法はあまり習得しておらぬでござる」

 

 「構わん。見れば分かる」

 

 「おろ? そうでござるか」

 

 軽いやり取りの後、マヒロは頷いた。

 

 ゆっくりと腰を落とし、魔剣――魔妖を構える。

 

 そういえば、彼女が本気で魔剣を扱う姿を見るのは初めてかもしれない。

 

 自然と視線が集まる。

 

 空気がわずかに張り詰める。

 

 「……抜刀――【鎌鼬《かまいたち》】!」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。