「はあ……はあ……ど、どうですか……?」
荒い息のまま問いかける生徒に、コールスタッシュ先生は煙を吐きながら短く答える。
「……ふー。駄目だ。不合格」
「くっそー!?」
歓声と落胆が交互に響く。
テストは想像以上に盛り上がっていた。
合格すれば走り込み免除。不合格なら追加メニュー。単純明快だからこそ、皆の感情はむき出しだ。
そんな中、自分は少し離れた場所で体育座りをしながら、その様子を眺めていた。
――走り込み確定。
開始前に言い渡された烙印のせいで、参加資格すらない。
真剣勝負のはずなのに、どこか楽しそうに見えてしまう。
悔しいはずなのに、羨ましいと思っている自分がいる。
指先で草をいじりながら、ただ黙って見守ることしかできなかった。
「よし、次ぃ!」
「は、はい!」
呼ばれたのはミオだった。
昨日今日の走り込みで、彼女は自分以上に消耗しているように見える。顔色も万全とは言い難い。
――大丈夫だろうか。
そう思う一方で、昨日彼女の魔法に吹き飛ばされた自分が心配するのも妙な話だ、と苦笑する。
「……ふー」
彼女は一度、深く息を吸った。
右手を前に構える。
ミオが扱えるのは二種類の魔法。
治癒魔法と風魔法。
治癒は発動までに集中を要する。今の疲労状態では分が悪い。
となれば――
「はあああああ!」
やはり風魔法だった。
右手の周囲に空気が渦を巻き、風の塊が形成されていく。昨日自分に叩きつけたものより、やや大きい。
いける――
そう思った瞬間。
「ッ……はあ、はあ……」
風の塊が、不意に揺らいだ。
次の瞬間、霧散。
彼女は膝に手をつき、肩で息をしている。額には汗が滲み、表情は苦しそうだ。
「……不合格」
先生の声は淡々としていた。
「それ以前に、詠唱も呼称もまともに行っていない。ただ魔力を垂れ流しているだけだ。論外だな」
「ッ……!」
ミオの肩が小さく震える。
その言葉は、魔法の失敗以上に重い。
「……ミオ……」
思わず名を呼ぶが、届かない。
確かに先生の言う通りだ。
彼女はこれまで、明確な詠唱や呼称を用いずに風を生み出してきた。才能ゆえの荒技。だがそれは同時に、無駄な消費を伴う危うい方法でもある。
ドレーカ村にいた頃は、それでも問題なかった。
幼さゆえの底知れぬ体力と、勢いがあったから。
だが今は違う。
膝に手をつき、苦しげに息を整える彼女の姿が、その現実を突きつけていた。
衰えた――というより、成長した身体に技術が追いついていないのだろう。
彼女自身が、それを一番痛感しているはずだ。
「よし、次ぃ!」
ミオが静かに下がる。
次に前へ出たのは――
「うむ! 次は拙者の番でござるな!」
場の空気を読まない、いや読まないのではなく吹き飛ばす勢いの声。
マヒロだ。
周囲が疲労で沈んでいる中、彼女だけ妙に元気である。背筋は伸び、目も爛々としている。疲れを感じさせない。
「始めろ」
先生が短く言う。
「あっ、拙者は魔剣を扱うゆえ、魔法はあまり習得しておらぬでござる」
「構わん。見れば分かる」
「おろ? そうでござるか」
軽いやり取りの後、マヒロは頷いた。
ゆっくりと腰を落とし、魔剣――魔妖を構える。
そういえば、彼女が本気で魔剣を扱う姿を見るのは初めてかもしれない。
自然と視線が集まる。
空気がわずかに張り詰める。
「……抜刀――【鎌鼬《かまいたち》】!」