転生勇者が死ぬまで10000日   作:慶名 安

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第5章ー41

 「全然駄目だ。不合格! よし、次ぃ!」

 

 先生の容赦ない声が野原に響く。

 

 その後も生徒たちは次々と前に出ては魔法を披露したが、結果は変わらない。合格者は依然としてマヒロただ一人。

 中には「厳しすぎる」と不満を漏らす者もいたが、先生は意に介さない様子だった。

 

 ――厳しく見てこそ意味がある。

 

 おそらく、そういうことなのだろう。

 甘い基準で合格を乱発するくらいなら、最初からテストなどしない。

 

 それは分かる。分かるのだが――

 

 「……それより、いつまでこの状態でいればよろしいので?」

 

 唯一の合格者であるマヒロは、なぜか自分の膝の上で横になっていた。

 

 普通、膝枕というのは逆ではないだろうか。

 いや、仮に自分がされる側だったとしても困るのだが。

 

 「サダメの膝は、拙者の愛用しているい草の枕のような心地よさで、実に眠りやすいでござるー」

 

 「はあ、さいですか」

 

 こちらの問いかけは華麗に無視され、膝の感想だけが述べられる。

 

 い草の枕といえば、どちらかと言えば固い印象なのだが。

 これは褒められているのか、それとも……。

 

 複雑な心境のまま視線をさまよわせていると、先生の声が聞こえた。

 

 「……お前で最後か」

 

 「ッ!? サダメ、あの者は……」

 

 「ああ。あいつか」

 

 最後に前へ出たのはアラガだった。

 

 相変わらず感情の読めない冷たい表情。

 無言のまま、ゆっくりと先生の前に立つ。

 

 彼の魔法を見るのは初めてだ。

 だが、これまで感じていたあの圧倒的な魔力量を思えば、只者ではないことは明らかだった。

 

 自然と周囲の視線が彼に集中する。

 

 「よし、始めろ」

 

 「……」

 

 短い沈黙。

 

 そして――

 

            「……【氷床《アイロア》】」

 

 「ッ!?」

 

 詠唱は、ほとんどなかった。

 

 彼は左手を静かに地面へとつける。

 

 次の瞬間、そこを起点に地面が一気に凍りついた。

 

 白い霜が走り、氷が広がり、瞬く間に前方へと伸びていく。

 

 「なっ……なんだよ、これ……」

 

 ほんの数秒。

 

 それだけで、緑一色だった野原は白銀の氷原へと変貌した。

 

 草は氷に閉じ込められ、空気すら冷え込んだように感じる。

 

 自分を含め、周囲の生徒たちは誰も言葉を発せない。

 

 あれほどの規模の魔法を――

 ほぼ無詠唱で。

 

 常識が、音を立てて崩れた。

 

 「……ふぅ……」

 

 アラガは小さく息を吐く。

 

 それだけだ。誇示も高揚もない。

 

 「……」

 

 先生も沈黙していた。

 表情は読み取れないが、言葉が出てこない様子からして、想定以上だったのは間違いない。

 

 「どうした。もう終わったが?」

 

 淡々とした一言。

 

 その声音に焦りも誇りもない。ただ事実を告げているだけだ。

 

 「……ああ。合格だ」

 

 わずかな間の後、先生が答える。

 

 「ふん」

 

 短く鼻を鳴らすと、アラガはそれ以上何も言わずに下がった。

 

 あの口の悪いコールスタッシュ先生ですら、余計な一言を挟まなかった。

 

 それが何よりの証明だった。

 

 「……サダメ。あの者、凄まじい魔法を使うでござるな」

 

 膝の上からマヒロが呟く。

 

 「前々から感じてはいたが、只者ではないでござる」

 

 「ああ……そうだな」

 

 素直に頷くしかない。

 

 口数は少なく、態度も素っ気ない。

 だが、実力だけは疑いようがない。

 

 このクラスで最も強いのは誰か。

 

 その問いに、迷いなく名前を挙げられる存在。

 

 アラガ。

 

 その事実を、誰もが今、改めて思い知らされたのだった。

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