「全然駄目だ。不合格! よし、次ぃ!」
先生の容赦ない声が野原に響く。
その後も生徒たちは次々と前に出ては魔法を披露したが、結果は変わらない。合格者は依然としてマヒロただ一人。
中には「厳しすぎる」と不満を漏らす者もいたが、先生は意に介さない様子だった。
――厳しく見てこそ意味がある。
おそらく、そういうことなのだろう。
甘い基準で合格を乱発するくらいなら、最初からテストなどしない。
それは分かる。分かるのだが――
「……それより、いつまでこの状態でいればよろしいので?」
唯一の合格者であるマヒロは、なぜか自分の膝の上で横になっていた。
普通、膝枕というのは逆ではないだろうか。
いや、仮に自分がされる側だったとしても困るのだが。
「サダメの膝は、拙者の愛用しているい草の枕のような心地よさで、実に眠りやすいでござるー」
「はあ、さいですか」
こちらの問いかけは華麗に無視され、膝の感想だけが述べられる。
い草の枕といえば、どちらかと言えば固い印象なのだが。
これは褒められているのか、それとも……。
複雑な心境のまま視線をさまよわせていると、先生の声が聞こえた。
「……お前で最後か」
「ッ!? サダメ、あの者は……」
「ああ。あいつか」
最後に前へ出たのはアラガだった。
相変わらず感情の読めない冷たい表情。
無言のまま、ゆっくりと先生の前に立つ。
彼の魔法を見るのは初めてだ。
だが、これまで感じていたあの圧倒的な魔力量を思えば、只者ではないことは明らかだった。
自然と周囲の視線が彼に集中する。
「よし、始めろ」
「……」
短い沈黙。
そして――
「……【氷床《アイロア》】」
「ッ!?」
詠唱は、ほとんどなかった。
彼は左手を静かに地面へとつける。
次の瞬間、そこを起点に地面が一気に凍りついた。
白い霜が走り、氷が広がり、瞬く間に前方へと伸びていく。
「なっ……なんだよ、これ……」
ほんの数秒。
それだけで、緑一色だった野原は白銀の氷原へと変貌した。
草は氷に閉じ込められ、空気すら冷え込んだように感じる。
自分を含め、周囲の生徒たちは誰も言葉を発せない。
あれほどの規模の魔法を――
ほぼ無詠唱で。
常識が、音を立てて崩れた。
「……ふぅ……」
アラガは小さく息を吐く。
それだけだ。誇示も高揚もない。
「……」
先生も沈黙していた。
表情は読み取れないが、言葉が出てこない様子からして、想定以上だったのは間違いない。
「どうした。もう終わったが?」
淡々とした一言。
その声音に焦りも誇りもない。ただ事実を告げているだけだ。
「……ああ。合格だ」
わずかな間の後、先生が答える。
「ふん」
短く鼻を鳴らすと、アラガはそれ以上何も言わずに下がった。
あの口の悪いコールスタッシュ先生ですら、余計な一言を挟まなかった。
それが何よりの証明だった。
「……サダメ。あの者、凄まじい魔法を使うでござるな」
膝の上からマヒロが呟く。
「前々から感じてはいたが、只者ではないでござる」
「ああ……そうだな」
素直に頷くしかない。
口数は少なく、態度も素っ気ない。
だが、実力だけは疑いようがない。
このクラスで最も強いのは誰か。
その問いに、迷いなく名前を挙げられる存在。
アラガ。
その事実を、誰もが今、改めて思い知らされたのだった。