「これで全員終了したな?」
先生は周囲を見渡し、全員がテストを終えたことを確認する。
――正確には一人、始まる前に不合格を言い渡された者がいるのだが。
まあ、もう蒸し返しても仕方がない。
「いいか。今回のテストは俺の独断だが、贔屓も冷遇もしていない。公平に見た上での判断だ」
先生の声はいつもより低く、真面目だった。
「合格者との差は、お前ら自身が一番よく分かったはずだ」
「……」
誰も反論しない。
三十人中、合格者は二人。
数字だけ見れば惨憺たる結果だ。
だが、あの二人の実力を目の当たりにしてしまえば、納得せざるを得ない。
マヒロの、無駄を削ぎ落とした魔剣の一閃。
そしてアラガの、無詠唱で野原一帯を凍らせた氷魔法。
どちらも圧倒的だった。
技術、制御、完成度――文句のつけようがない。
「遺憾ながら、これが現状だ」
先生は腕を組む。
「お前らはまだ、魔法学の基礎を学ぶ土台すら整っていない。これまでの試験や模擬戦で“たまたま”上手くいったからといって、天狗になるな」
言葉が突き刺さる。
「その伸びきった鼻を、俺たちが容赦なくへし折ってやる。まずは基礎中の基礎――体力づくりからだ。徹底的にやる。覚悟しておけ」
「「はい!」」
返事だけは威勢がいい。
「他の先生方とも話は通してある。今後は、各担当が“充分だ”と認めた者から次の段階へ進む形式にする」
段階制。
つまり、全員一律ではないということだ。
「魔剣の方はすでに合格だ。次に進みたいと判断したら、そのとき相談しろ」
「うむ! 了解したでござる」
マヒロは元気よく応じる。
「白髪の方は、明日の担当から指示を受けろ。いいな?」
「……ああ」
アラガは短く返した。
「今日はここまでだ。解散――」
「あ、あの!」
突然、ギリスケが手を挙げた。
先生の眉間に皺が寄る。
「あ゛あ゛ん?」
次の瞬間。
「ぐおっ!?」
先生はギリスケの顔面を片手で掴み、そのまま軽々と持ち上げた。
何という握力だ。
見ているこちらの頬まで痛くなりそうだ。
「さっさと終わらせて帰れると思ったのに、余計な口を挟みやがって。殺すぞテメー」
「ご、ごめんなさいでででででっ!?」
どうやら怒りの理由は授業進行ではなく、帰宅時間らしい。
とはいえ、生徒に対してその扱いはどうなのだろう。
顔面を握り潰されかけているギリスケが、さすがに気の毒になる。
――今日は自分より不運な男がいたな。
「ちっ……それで? 何だ。手短に言え」
解放されたギリスケはその場に崩れ落ち、涙目で息を整える。
本気で危なかったに違いない。
「あ、あの……前から聞いてた“派遣任務”ってやつ……あれって、いつから始まるんすか?」
その問いに、場の空気がわずかに引き締まる。
確かに、それは皆が気になっていたことだ。
定期的に行われるという派遣任務。
だが、具体的な日程については説明を受けていなかった。
――ギリスケにしては、いい質問だ。
先生は一瞬だけ沈黙し、口元を吊り上げた。
「……ああ。説明してなかったか」
そして、にやりと笑う。
「ふっ。聞いて喜べ」
嫌な予感しかしない前置きだ。
「お前らの初めての派遣任務は――二週間後だ」