「「……はっ?!」」
先生が不敵な笑みを浮かべて告げた答えに、野原に集まった生徒全員が言葉を失った。
入学して、まだ一週間も経っていない。にもかかわらず、一か月も待たずして初任務――さすがに早すぎるのではないか。そもそも、魔法学の基礎すら満足に学べていないのだ。
「そ、それはいくらなんでも早すぎじゃないですか? 俺たち、まだ入学したばっかですよ?!」
誰かが、皆の胸中を代弁するように声を上げた。
これは誰かが言わなければならない。仮に彼が言わなかったとしても、いずれ別の誰かが同じ疑問を口にしていただろう。
「だから、なんだ?」
返ってきた言葉は、あまりにも冷淡だった。
「なっ……なんだって……」
先生の目は笑っていない。冗談や脅しの類ではなく、本気で言っているのだと誰の目にも明らかだった。
「ここは優秀な人材を育てるために設立された学園だ。人材を育成するには、知識だけじゃ足りねえ。経験が必要だ」
先生は煙草を咥えたまま、淡々と言葉を紡ぐ。
「経験ってのはな、積めば積むほど成長の糧になる。お前らは、のんびり学園生活を送るつもりかもしれねえが……三年なんて、お前らが思ってる以上に一瞬で終わる」
胸に刺さる言葉だった。
「そんな悠長にやってる時間はねーんだよ」
「……」
反論する者は、誰一人としていなかった。
前世で高校生活を送っていた自分には、先生の言葉が痛いほど分かる。
勉強も部活もほどほどに、ゲームやアニメに時間を費やし、気付けば卒業。もっと勉強しておけばよかった、部活を本気でやればよかった、彼女の一人でも作ればよかった――そんな後悔ばかりが残る三年間だった。
先生の言う通りだ。
この学園で、ただ流されるままに過ごしている時間はない。
「……とはいえ、いきなり命の危険がある任務を振るほど、俺も鬼じゃねえ」
先生はそう言って、少しだけ声の調子を緩めた。
「せいぜい、村の雑用依頼とかだろうな。お前らの今の実力じゃ、護衛や魔物討伐はさすがに危険すぎる。だから、あんまり気負いすぎんな」
フォローのつもりなのだろう。
張り詰めていた空気が、わずかに和らいだのを感じた。
――この人、口は悪いが、意外と気を遣うところもあるんだな。
「とにかく、任務のことは今は考えるな。お前らが今やるべきことは一つだけだ」
先生は指を突きつける。
「体力づくりだ。そこ、忘れんなよ!」
そして一息に言い切った。
「以上! 他に言いたいことがある奴はいねーな? ……いねーよな! よし、今度こそ解散!」
そう言い捨てると、先生はそそくさとその場を後にした。
本当に、よほど早く帰りたかったのだろう。
「……とりあえず、朝練でも始めてみるか」
初任務まで、残り二週間。
それまでに基礎体力を底上げし、本格的な魔法学の授業についていけるようになる。
そう心に決め、静かに拳を握り締めた。
――転生勇者が死ぬまで、残り4096日。