転生勇者が死ぬまで10000日   作:慶名 安

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第5章ー43

 「「……はっ?!」」

 

 先生が不敵な笑みを浮かべて告げた答えに、野原に集まった生徒全員が言葉を失った。

 入学して、まだ一週間も経っていない。にもかかわらず、一か月も待たずして初任務――さすがに早すぎるのではないか。そもそも、魔法学の基礎すら満足に学べていないのだ。

 

 「そ、それはいくらなんでも早すぎじゃないですか? 俺たち、まだ入学したばっかですよ?!」

 

 誰かが、皆の胸中を代弁するように声を上げた。

 これは誰かが言わなければならない。仮に彼が言わなかったとしても、いずれ別の誰かが同じ疑問を口にしていただろう。

 

 「だから、なんだ?」

 

 返ってきた言葉は、あまりにも冷淡だった。

 

 「なっ……なんだって……」

 

 先生の目は笑っていない。冗談や脅しの類ではなく、本気で言っているのだと誰の目にも明らかだった。

 

 「ここは優秀な人材を育てるために設立された学園だ。人材を育成するには、知識だけじゃ足りねえ。経験が必要だ」

 

 先生は煙草を咥えたまま、淡々と言葉を紡ぐ。

 

 「経験ってのはな、積めば積むほど成長の糧になる。お前らは、のんびり学園生活を送るつもりかもしれねえが……三年なんて、お前らが思ってる以上に一瞬で終わる」

 

 胸に刺さる言葉だった。

 

 「そんな悠長にやってる時間はねーんだよ」

 

 「……」

 

 反論する者は、誰一人としていなかった。

 

 前世で高校生活を送っていた自分には、先生の言葉が痛いほど分かる。

 勉強も部活もほどほどに、ゲームやアニメに時間を費やし、気付けば卒業。もっと勉強しておけばよかった、部活を本気でやればよかった、彼女の一人でも作ればよかった――そんな後悔ばかりが残る三年間だった。

 

 先生の言う通りだ。

 この学園で、ただ流されるままに過ごしている時間はない。

 

 「……とはいえ、いきなり命の危険がある任務を振るほど、俺も鬼じゃねえ」

 

 先生はそう言って、少しだけ声の調子を緩めた。

 

 「せいぜい、村の雑用依頼とかだろうな。お前らの今の実力じゃ、護衛や魔物討伐はさすがに危険すぎる。だから、あんまり気負いすぎんな」

 

 フォローのつもりなのだろう。

 張り詰めていた空気が、わずかに和らいだのを感じた。

 

 ――この人、口は悪いが、意外と気を遣うところもあるんだな。

 

 「とにかく、任務のことは今は考えるな。お前らが今やるべきことは一つだけだ」

 

 先生は指を突きつける。

 

 「体力づくりだ。そこ、忘れんなよ!」

 

 そして一息に言い切った。

 

 「以上! 他に言いたいことがある奴はいねーな? ……いねーよな! よし、今度こそ解散!」

 

 そう言い捨てると、先生はそそくさとその場を後にした。

 本当に、よほど早く帰りたかったのだろう。

 

 「……とりあえず、朝練でも始めてみるか」

 

 初任務まで、残り二週間。

 それまでに基礎体力を底上げし、本格的な魔法学の授業についていけるようになる。

 

 そう心に決め、静かに拳を握り締めた。

 

 ――転生勇者が死ぬまで、残り4096日。

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