翌日の早朝、目標を達成するために、俺は早朝ランニングを日課にすることを決めた。
「はあ……はあ……」
日が昇り始め、空が白みかける時間帯に走り出して、かれこれ三十分ほどが経っただろうか。吐く息は白く、肌寒い空気が肺に心地よく入り込んでくる。走るにはちょうどいい気温だ。
自然と、高校時代の朝練を思い出していた。あの頃は、正直言って朝から走るなんて苦痛でしかなかった。布団の温もりを引き剥がされ、眠気と寒さに文句を言いながらグラウンドを走っていた記憶しかない。
だが、今は違う。
実際に走ってみると、思っていた以上に気分がいい。身体が温まり、頭の中まで澄んでいく感覚がある。これが年を取ったからなのか、それとも前世で多少なりとも身体を使う仕事をしていた影響なのかは分からない。社会人になってからは肉体労働ばかりで、休日にわざわざ身体を酷使しようなどとは思いもしなかった。もし年金生活にでも入っていたら、また違った価値観になっていたのだろうか――そんなことを考えながら、学園内の道をひたすら走り続けていた。
昨日の出来事は、想像以上に自分の中に重く残っていた。
体力が落ちているだけで、魔法の質があそこまで露骨に変わる。知識や技術以前の問題だ。魔法は精神や魔力だけでなく、確かに「身体を使う行為」なのだと、あの実演ではっきり思い知らされた。
だから、昨日の授業が終わった後、俺は自分なりにトレーニングメニューと一日のスケジュールを考えてみた。寮内の決まりで風呂や食事の時間はある程度固定されているため、それを前提に組み立てたが、我ながらなかなかにハードな内容だと思う。
早朝はランニングから始め、その後に腕立て伏せや腹筋といった基礎トレーニング。村にいた頃に習慣づいていた剣の素振りや、簡単な魔法の撃ち込みも忘れない。
身体を鍛えるには食事も重要だ。朝・昼・晩はきちんと食べ、間食は極力控える。睡眠時間も確保するため、日付が変わる前には就寝。寝る前には必ずストレッチを行い、夜更かしは厳禁。起床は今日のように日の出前――そんな生活だ。
冷静に考えれば、前世の自堕落な自分がこの予定表を見たら、間違いなく卒倒していただろう。
それでも、今日からは真人間の生活を送ると、密かに決意していた。勇者を目指す以上、これくらいは当然だ。今までどこかで自分を甘やかしてきた。そのツケを、ここで清算しなければならない。
マヒロやアラガのような、明らかに次元の違う連中に追いつくには、人並みの努力では足りない。何倍も、何十倍も積み重ねる必要がある。
「はあ……はあ……よし、もう少しだけ走ったら……」
そう区切りをつけようとした、その時だった。
「おー! サダメではござらんか!?」
「ッ!? マヒロ?!」
背後から聞き覚えのある声と独特の口調が、自分の名を呼ぶ。思わず足を止め、振り返ると――そこには、爽やかな笑顔を浮かべながら並走してくるマヒロの姿があった。