暫くの間、彼女と並んで走り続ける。
マヒロはきっちりと自分のペースに合わせてくれているはずなのだが、それでも呼吸一つ乱れていない。一方の自分はというと、徐々に息が上がり、肺が熱を持ち始めているのが分かる。
やはり、この人の体力は底知れない。
「ところでサダメ、少々気になる事があるのでござるが……」
「ん?」
彼女がふと思い出したように話を振ってきた。
まさか走るのが遅いとか、フォームが悪いとか、そういう容赦のない指摘が飛んでくるのではないかと一瞬身構える。
「昨日から、ミオの様子がおかしいのでござる」
「ミオが?」
そう言われて、すぐに思い当たる節が浮かんだ。
昨日のテスト後、先生から辛辣な評価を受けて以来、彼女は明らかに元気を失っていた。普段なら何かしら言い返しそうな場面でも、ただ黙って俯いていた姿が脳裏に焼き付いている。
「風呂の時や夕餉の際にも声を掛けたのでござるが、ずっと俯いたままで……拙者の声が届いておらぬようでござった。少々、いや、かなり心配なのでござる」
「……そうか」
マヒロの話を聞く限り、思っていた以上に深刻らしい。
一晩寝て気持ちを切り替えてくれていればいいが、どうやらそう簡単な話でもなさそうだ。
「……分かった。俺からも声を掛けてみるよ」
「うむ。サダメなら、反応してくれるかもしれぬ。お頼み申す」
「ああ。任せとけ」
そう答えはしたものの、内心では不安が残る。
正直なところ、今の彼女にどう声を掛ければいいのか、まるで分からない。登校前までに、何かしら言葉を考えておかねば。
そんな話をしているうちに、ランニングの区切りとなる川辺へと辿り着いた。
水辺のおかげか風通しがよく、火照った身体を休めるには丁度いい場所だ。
「ふう。いい汗を掻いたでござるな」
「ああ、そうだな」
自分は川の近くに腰を下ろし、冷たい水で手を冷やして息を整える。
――と、その時だった。
「よっと!」
「ッ!?」
水音がして振り向くと、マヒロが全裸になり、勢いよく川に飛び込んでいた。
浅瀬だったらしく、水しぶきを上げながら楽しそうに立ち上がる。
「何やってんだ、マヒロ!?」
「おろ? 水浴びでござるが?」
「いや、気持ちは分かるけどさ……!」
突然の行動に思わず声を荒げてしまう。
朝とはいえ人目のある場所だし、何より休憩のつもりだったはずなのだが。
「走って汗を掻いた後の水は格別でござるよ? サダメもどうでござる?」
「遠慮しとく! 寮に戻れば風呂あるだろ!」
「むむ……サダメは分かっておらぬ。ここで身体を冷やす爽快感は、何にも代え難いのでござる」
そう言いながら、彼女は水を手ですくってこちらにかけてくる。
「おい!? やめろって!」
「ふっふっふー、ならば強制参加でござるなー!」
「ちょっ、来るな!? 水かけるなって!」
完全に遊びモードに入った彼女を止めることはできず、その後しばらく、全裸の彼女と川辺で無駄に追いかけっこをする羽目になった。
本来なら体力回復のための休憩時間だったはずなのに、結果として余計に体力を消耗してしまったのは言うまでもない。
――前途多難な朝練である。