転生勇者が死ぬまで10000日   作:慶名 安

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第5章ー47

 「はあ、朝からスゲー疲れた……」

 

 一人で登校中、思わずため息混じりに本音を吐露していた。

 あの後、マヒロに服を脱がされないよう必死に逃げ回ったせいで、想定外に体力を消耗してしまったのだ。朝練としてのランニングはそれなりにこなしたはずなのに、最後はまるで鬼ごっこの延長戦。完全に余計な消耗である。

 

 風呂に入って汗を流し、朝食もしっかり食べ、登校前には軽く横にもなった。それでも身体の奥に残る疲労感は消えきらず、脚や腹筋がじんわりと重い。

 今日の魔法学の授業、大丈夫だろうか。眠気より先に筋肉痛が来そうな気配すらある。

 

 そんなことを考えながら校舎へ向かっていると、前方に俯き気味で歩いている女子生徒の姿が目に入った。

 

 「ん? あれは……」

 

 見覚えのある後ろ姿。

 髪型と雰囲気からして、間違いなくミオだ。

 

 そういえば、昨日マヒロに彼女の様子を見てほしいと頼まれていた。表情は遠目からでは分からないが、背中越しにも分かるほど元気がない。歩く速度も心なしか遅く、肩も少し落ちているように見える。

 

 ――どう声を掛けたものか。

 

 落ち込んでいる相手に、気の利いた言葉を投げかけられるほど、自分は人付き合いが得意ではない。下手なことを言えば逆効果になる可能性もあるし、沈黙を恐れて余計なことを口走る自信もある。

 

 だが、マヒロと約束した以上、何もしないわけにはいかない。

 とりあえず様子見で、いつも通りの挨拶から始めるしかないだろう。

 

 「お、おはよう、ミオ」

 

 後ろから声を掛けると、彼女は一瞬肩を跳ねさせた。

 

 「ッ!? ……サダメ。おはよう」

 

 少し驚いた様子ではあったが、ちゃんとこちらを振り返り、挨拶を返してくれた。顔色は悪くないし、目の下に隈も見えない。どうやら昨夜はそれなりに眠れていたらしい。

 

 「? どうかしたの?」

 

 じっと様子を見ていたせいか、逆に心配されてしまった。

 

 「え? あ、いや、なんでもねーよ」

 

 「……そう……」

 

 こちらが心配していたはずなのに、心配される側に回ってしまったことに、内心で苦笑する。

 改めて見てみると、確かにテンションは低めだが、想像していたほど深刻ではなさそうだ。会話も成立しているし、反応も鈍くはない。朝でまだ頭が完全に起きていないだけ、という可能性も十分ある。

 

 「……そ、そういえばさ。今日、早朝にランニングしてたら、マヒロとばったり会ってさ」

 

 「へえ、そうなんだ」

 

 彼女は小さく微笑みながら相槌を打ってくれた。

 その様子を見て、胸の奥にあった緊張が少しだけ和らぐ。

 

 ――やっぱり、一晩寝て気分をリセットできたのかもしれない。

 

 そう思って安心した、その矢先だった。

 

 「それでアイツ、川で休憩してたら急に裸になってさ……」

 

 「『はだか』?」

 

 「あっ!?」

 

 センシティブな単語を口にした瞬間、ミオの空気が一変した。

 穏やかだった表情が凍りつき、次の瞬間には鋭い視線が突き刺さる。

 

 しまった。

 ホッとしたせいで、完全に調子に乗った。

 

 「い、いや、あの、ミオさん? それには深い事情がありましどぅぇへっ!?」

 

 必死に言い訳を探すも、その努力は無駄に終わる。

 

 「問答無用!!」

 

 次の瞬間、腹部に重い衝撃が叩き込まれ、身体が宙を舞った。

 視界が回転し、気付けば数メートル先の地面を転がっていた。

 

 「……ふん!」

 

 倒れ込んだ自分を一瞥すると、ミオはゴミを見るような冷たい目を向け、そのまま何事もなかったかのように学園へと歩いて行った。

 

 これで自分の不運記録は、また一つ更新である。

 

 だが――。

 

 「……元気そうで、何よりだな」

 

 地面に転がりながら、そんなことを思ってしまう自分がいた。

 怒って、殴って、そっぽを向く。それは、いつも通りのミオの姿だったからだ。

 

 ゆっくりと身体を起こし、制服の埃を払いながら、自分は苦笑交じりに立ち上がった。

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