「っは~~~、疲れたぁ~~!」
授業が終わり、全身から力が抜けた自分は、ギリスケと連れ立って学園の大浴場へとやって来ていた。
洗い場で汗と泥を洗い流している間に、ギリスケはさっさと湯船へ浸かり、首まで沈んだまま天井を見上げている。どうやら相当堪えたらしい。
――まあ、無理もない。
さっきまで彼は、まるで銃で撃たれたかのように足元がおぼつかず、今にも倒れそうな瀕死状態だった。あれで平然としていられる方がおかしい。
「ったく……こんなの毎日続くのかよ……」
湯船の中から、魂の抜けたような声が響く。
「先生からオッケー貰えりゃ解放されるけどな」
身体を拭き終えた自分も、少し遅れて湯船に浸かり、ギリスケの隣に腰を下ろした。
じんわりと広がる湯の温かさが、張り詰めていた筋肉をほぐしていく。
「う゛あ゛~~、いやだいやだいやだ~~。とっとと魔法の授業受けてぇ~~~!」
完全に愚痴モードに入ったギリスケは、湯船の縁に頭を預けて駄々をこねるように喚いていた。
気持ちは分かる。分かるが、正直うるさい。
「これじゃあ、魔法の授業受ける頃には脚だけムッキムキになってんぞ」
「そんな簡単になるわけねーだろ。人間の肉体なめんなよ」
思わずマジレスすると、ギリスケは「やれやれ」とでも言いたげに肩をすくめた。
「マジにすんなって。冗談だろ、冗談」
……少し腹が立った。
話に付き合ってやってるのに、その態度はなんだ。
「けどさ、マジでこれ、いつまで続くんだろうな」
ギリスケは一転して真剣な声色になり、湯の中で小さく息を吐いた。
「このままだとさ、脱落者とか出ちまうんじゃねーの?」
「脱落者?」
聞き返した瞬間、嫌な言葉が胸に引っかかる。
「中退する奴が出るんじゃねーのって話」
「ッ!?」
思わず声が裏返った。
倍率の高い名門校を突破し、ようやく掴んだ入学の切符だ。入って間もないうちから中退なんて、普通は考えにくい。
「……いや、流石にそれはないと思うけどな」
「なんで?」
「なんでって……皆、結構頑張ってるしさ。わざわざこんな倍率の高い学園に来てるんだ。ある程度覚悟して入ってきてるだろ?」
「“ある程度”な」
ギリスケはそう言って、湯船の水面を指でなぞった。
「この学園に居る大半の連中はな、結局“卒業した”っていう肩書きが欲しいだけだよ。名門校卒って聞きゃ、それだけで将来有望って思われるだろ?」
「……まあ、たしかに」
否定はできなかった。
「卒業が難しいってのも有名だ。だから、それなりの覚悟で来てる。……けどさ」
ギリスケは少し間を置き、低い声で続ける。
「蓋を開けてみりゃ、毎日毎日、走って走って走って走るだけ。魔法を学べると思って来たら、待ってたのは体力トレーニングだぜ? 理想と現実の差がデカすぎる」
「……」
「人間ってな、期待してた分だけ、裏切られると一気にやる気失くすもんなんだよ。『こんなはずじゃなかった』ってな。そうなりゃ、そのうち『もうどうでもいいや』ってなる」
湯の音だけが、静かに響く。
「……やってらんねー、ってな」
その言葉を聞いて、胸の奥がひやりとした。
確かに、ここまで理想と現実を突きつけられれば、心が折れてしまう者が出ても不思議じゃない。
皆、根性はある。だが、それがいつまで持つかは別の話だ。
――嫌な予感が、じわじわと広がっていく。
湯の温もりとは裏腹に、胸の奥だけが冷えていくのを感じながら、自分は何も言えず、ただ天井を見上げていた。