転生勇者が死ぬまで10000日   作:慶名 安

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第5章ー49

 「っは~~~、疲れたぁ~~!」

 

 授業が終わり、全身から力が抜けた自分は、ギリスケと連れ立って学園の大浴場へとやって来ていた。

 洗い場で汗と泥を洗い流している間に、ギリスケはさっさと湯船へ浸かり、首まで沈んだまま天井を見上げている。どうやら相当堪えたらしい。

 

 ――まあ、無理もない。

 

 さっきまで彼は、まるで銃で撃たれたかのように足元がおぼつかず、今にも倒れそうな瀕死状態だった。あれで平然としていられる方がおかしい。

 

 「ったく……こんなの毎日続くのかよ……」

 

 湯船の中から、魂の抜けたような声が響く。

 

 「先生からオッケー貰えりゃ解放されるけどな」

 

 身体を拭き終えた自分も、少し遅れて湯船に浸かり、ギリスケの隣に腰を下ろした。

 じんわりと広がる湯の温かさが、張り詰めていた筋肉をほぐしていく。

 

 「う゛あ゛~~、いやだいやだいやだ~~。とっとと魔法の授業受けてぇ~~~!」

 

 完全に愚痴モードに入ったギリスケは、湯船の縁に頭を預けて駄々をこねるように喚いていた。

 気持ちは分かる。分かるが、正直うるさい。

 

 「これじゃあ、魔法の授業受ける頃には脚だけムッキムキになってんぞ」

 

 「そんな簡単になるわけねーだろ。人間の肉体なめんなよ」

 

 思わずマジレスすると、ギリスケは「やれやれ」とでも言いたげに肩をすくめた。

 

 「マジにすんなって。冗談だろ、冗談」

 

 ……少し腹が立った。

 話に付き合ってやってるのに、その態度はなんだ。

 

 「けどさ、マジでこれ、いつまで続くんだろうな」

 

 ギリスケは一転して真剣な声色になり、湯の中で小さく息を吐いた。

 

 「このままだとさ、脱落者とか出ちまうんじゃねーの?」

 

 「脱落者?」

 

 聞き返した瞬間、嫌な言葉が胸に引っかかる。

 

 「中退する奴が出るんじゃねーのって話」

 

 「ッ!?」

 

 思わず声が裏返った。

 倍率の高い名門校を突破し、ようやく掴んだ入学の切符だ。入って間もないうちから中退なんて、普通は考えにくい。

 

 「……いや、流石にそれはないと思うけどな」

 

 「なんで?」

 

 「なんでって……皆、結構頑張ってるしさ。わざわざこんな倍率の高い学園に来てるんだ。ある程度覚悟して入ってきてるだろ?」

 

 「“ある程度”な」

 

 ギリスケはそう言って、湯船の水面を指でなぞった。

 

 「この学園に居る大半の連中はな、結局“卒業した”っていう肩書きが欲しいだけだよ。名門校卒って聞きゃ、それだけで将来有望って思われるだろ?」

 

 「……まあ、たしかに」

 

 否定はできなかった。

 

 「卒業が難しいってのも有名だ。だから、それなりの覚悟で来てる。……けどさ」

 

 ギリスケは少し間を置き、低い声で続ける。

 

 「蓋を開けてみりゃ、毎日毎日、走って走って走って走るだけ。魔法を学べると思って来たら、待ってたのは体力トレーニングだぜ? 理想と現実の差がデカすぎる」

 

 「……」

 

 「人間ってな、期待してた分だけ、裏切られると一気にやる気失くすもんなんだよ。『こんなはずじゃなかった』ってな。そうなりゃ、そのうち『もうどうでもいいや』ってなる」

 

 湯の音だけが、静かに響く。

 

 「……やってらんねー、ってな」

 

 その言葉を聞いて、胸の奥がひやりとした。

 確かに、ここまで理想と現実を突きつけられれば、心が折れてしまう者が出ても不思議じゃない。

 

 皆、根性はある。だが、それがいつまで持つかは別の話だ。

 

 ――嫌な予感が、じわじわと広がっていく。

 

 湯の温もりとは裏腹に、胸の奥だけが冷えていくのを感じながら、自分は何も言えず、ただ天井を見上げていた。

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