第6章ー1
サダメたちがソワレル魔法学園に入学する、少し前の出来事である。
クルーシア王国の都市・ソワレルからわずかに離れた場所に、ディスペーアと呼ばれる小さな集落があった。人口は十数人ほど。村と呼ぶにはあまりにも規模が小さく、地図にも名前が載らないような、ひっそりとした土地だった。
――その集落で起きた出来事は、忘れ去られるにはあまりにも残酷で、あまりにも理不尽だった。
「おらあぁぁ!」
「きゃあぁっ!?」
怒号と悲鳴が、穏やかだったはずの集落の空気を一瞬で引き裂いた。
武装した賊たちは前触れもなく現れ、人々に襲いかかった。住民たちは最初、何が起きているのか理解できず、呆然と立ち尽くすしかなかった。だが、最年長の老人が無残にも斬り伏せられたことで、ようやくそれが“襲撃”なのだと悟る。
逃げ惑う背中。
追いすがる刃。
抵抗する術など持たない集落の人々は、次々と命を奪われていった。男も、女も、老いも若きも関係ない。ただ、そこに居たという理由だけで。
「お、お願いです……殺さないで、ください……」
震える声で懇願する男に、賊は下卑た笑みを浮かべる。
「抵抗しなきゃ、すぐには殺さねぇよ。俺たちは“用事”があって来ただけだ」
その“用事”の正体を問いかけようとした瞬間、男の言葉は途中で断ち切られた。
「探るな。探る奴は殺す」
冷たく言い捨てられ、刃が振るわれる。
悲鳴を上げた女も、同じ運命を辿った。
その凄惨な光景を、若い男女のカップルが息を殺して見つめていた。恐怖で身体は震え、声すら出せない。
賊の頭目――灰色の髪をした男が、二人に興味深げな視線を向ける。
「なあ、お前ら……恋人同士か?」
逆らえば殺される。
そう理解した男は、喉を鳴らしながら、かろうじて肯定した。
頭目は執拗に言葉を重ね、二人の関係を嘲るように弄ぶ。その声音には、状況を楽しんでいるかのような歪んだ愉悦が滲んでいた。
やがて、男は仲間に短く命じる。
「押さえろ。女は立たせろ」
抵抗は無意味だった。
男は地面に押さえつけられ、女は逃げ場を奪われる。
「や、やめてください……! いや!! いやああああああ!!」
必死の懇願は、賊たちの下卑た笑い声にかき消された。
――その後、何が行われたのか。
詳細を記す必要はない。
ただ一つ確かなのは、
その場で彼女の尊厳が踏みにじられ、
彼は、目の前で最も守りたかった存在を奪われたという事実だけだ。
女は声を失い、
男は歯を食いしばり、血が滲むほど拳を握りしめて、ただ耐えるしかなかった。
賊たちの下卑た笑い声は、いつまでも集落に響き続けていた。
――ディスペーアは、その日を境に、完全に壊れた。