「この子、フィーちゃんって言うの。寮で仲良くなってね。せっかくだから、みんなに紹介したくて」
ミオの隣に立っていたのは、金髪を三つ編みにまとめた小柄な少女だった。体つきはどこか幼く、垂れ目がさらに年少の印象を強めている。ソンジさんと同系統の華奢な体格だが、雰囲気はどこか柔らかい。
ただ、一つだけ目を引くものがあった。
彼女は黒いフェイスマスクで口元を覆っており、言葉を発する代わりに、マスクの前方に淡く光る文字が浮かび上がる。そしてその直後、機械的な音声が空気を震わせた。
『フィー・ミッドブルーだよ。よろしくー』
「おおっ。この華やかな面子に、さらにもう一輪の華が加わった! 俺はギリスケ・アンドリューズ。よろしくな!」
「拙者、マヒロ・トーエンでござる」
「サダメ・レールステンだ。よろしく、フィー」
挨拶を返しながら、俺は改めて彼女のマスクを見つめた。声帯を使っている様子はない。文字が先に表示され、それを追うように音声が流れる仕組みらしい。
これは魔道具だろうか。
「フィーちゃん、喋れなくてね。魔道具を通してしか会話できないみたいなの」
ミオが補足する。
『慣れるまで時間かかるかもしれないけど、ごめんね』
「そうなのでござるか?」
『うちはちょっと特殊な家系でね。家族みんな、生まれつき声が出ないんだよ』
「……そう、なんだ」
思わず言葉が詰まる。家族全員が話せない――想像するだけでも不便が多そうだ。俺の表情が曇ったのだろう。フィーのマスクに、すぐさま文字が浮かんだ。
『気にしなくていいよ。三つの頃にはもう慣れたし、不便だとは思ってないから』
あっけらかんとした文面だった。機械音声は淡々としているのに、不思議と明るさが伝わってくる。
『この魔道具【代弁者マスク《スピーク》】はね、私が伝えたい言葉を読み取って、文字と音声に変換してくれるの。うちの家が独自に作ったんだ』
「ほう、それほどの品を家で用意できるとは……」
マヒロが感心したように頷く。
『正確には、家に雇われてる技術者さんが、だけどね』
どうやら相当優秀な職人を抱えているらしい。技術力も資金力もある家系なのだろう。ソンジさんが聞けば、きっと目を輝かせるに違いない。
「まあ、とにかく。これから一緒に頑張ろう。改めてよろしく」
俺が手を差し出すと、フィーは少しだけ首を傾げてから、にこりと笑った。
『こちらこそー。私、戦闘は全然ダメだけど、サポートは得意だから後衛は任せて! もし死んだら骨は拾ってやるからな!』
「は、ははは……」
握手を交わしながら、思わず乾いた笑いが漏れる。冗談なのは分かるが、初任務を目前に控えた状況では少々笑いづらい。
もっとも、初任務で命の危険があるような依頼を持ってくるとは考えにくい。……いや、リーフさんが「現場にアクシデントは付き物」と言っていた気もする。内容次第では、絶対安全とも言い切れない。
だとしたら、今の冗談はやはり縁起でもない。
とはいえ、悪い子ではなさそうだ。むしろ、場を和ませようとしたのだろう。
「よし。全員決まったか?」
わちゃわちゃと自己紹介を終えた頃、コールスタッシュ先生の声が響いた。気付けば、他の生徒たちもそれぞれ五人組を作り、まとまっている。
視線を巡らせると、アラガの姿が目に入った。少し距離はあるものの、どうやら別の班に加わったらしい。
正直、ほっとした。
実力は認めるが、同じ班になれば揉め事の種になる可能性は高かった。彼のことだから「一人でやる」と意地を張るかと思っていたが、どうやらそこまで拗らせてはいないようだ。
――それならそれで、安心だ。
「さて。それじゃあ次だ」
先生は懐から四枚の紙を取り出し、ひらりと掲げた。