転生勇者が死ぬまで10000日   作:慶名 安

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第6章ー7

 「……まらっぐ?」

 

 聞き慣れない単語に、全員が首を傾げる。

 

 「魔法薬物。略して魔薬《マラッグ》だ。基本的には違法指定されている薬物の総称だな」

 

 先生は淡々と説明する。

 

 「? その魔薬とは、何故そこまで禁じられているのでござるか?」

 

 マヒロが真面目な顔で問いを重ねた。

 

 「端的に言えば、人体への害が甚大だからだ。精神を侵し、魔力を暴走させ、最悪の場合は死に至る」

 

 「……」

 

 教室の空気が一段階重くなる。

 

 前世で言うところの“麻薬”に近いのだろう。依存性があり、肉体や精神を破壊する危険物。そこに“魔”の要素が加わるのだから、厄介さは比べものにならない。

 

 「元々、タリスターには魔物除けの効果がある。それゆえ小さな村や集落に植えられ、魔物の侵入を防ぐ役割を担っていた」

 

 そこまでは知っている。

 

 だが先生は、そこで一拍置いた。

 

 「だが最近、その花に魔薬と同様の成分が含まれていることが判明した」

 

 「ッ!?」

 

 空気が凍る。

 

 「それを嗅ぎつけた連中がいる。タリスターを乱獲し、さらには自生地周辺の村や集落を襲撃する輩まで現れ始めた」

 

 「……そんな。酷い」

 

 ミオが小さく呟く。

 

 俺の脳裏に、ふとリーヴ村の出来事がよぎった。

 あの時、リーフさんが捕えた賊と交わしていた会話――何か似たような話題が出ていた気がする。ミオはあの場にいなかったが、俺は確かに耳にした。

 

 「タリスターは各地に広く分布している。騎士団だけでは手が回らん。そこでお前たちには、ここから少し離れたレルト集落へ向かい、タリスターを一つ残らず処分してもらう」

 

 淡々と告げられたその内容に、

 

 「……えっ? ちょっと待てよ、先生!?」

 

 ギリスケが声を荒げた。

 

 「ちっ、うるせーな。なんだ」

 

 「俺たちが処分しに行くってことはさ、賊と鉢合わせる可能性もあるってことだろ?」

 

 「ッ!?」

 

 その指摘に、全員がはっとする。

 

 確かに。

 賊が狙っている花を俺たちが処分する。

 つまり、その現場を押さえようとする可能性は十分ある。

 

 「……ああ。その通りだ」

 

 あまりにもあっさりと肯定された。

 

 「その通りだ、って……」

 

 「正直に言う。今回の任務は、お前たちには荷が重いかもしれん」

 

 「ッ!? じゃあ何でこの任務なんですか!」

 

 思わず声が強くなる。

 

 「任務を受諾したのは理事長だ。あの人は無駄に顔が広い」

 

 どうやら、この任務はリーフさんの判断らしい。

 

 ……本当に、何を考えているんだあの人は。

 

 新入生に、賊と遭遇する可能性のある任務を?

 

 「理事長が受けた以上、俺たちが断ることはできん。お前たちには遂行してもらう」

 

 「そ、そんな……」

 

 ミオが不安げに目を伏せる。無理もない。入学して間もない自分たちには、あまりにも現実味のある危険だ。

 

 「……っていうか、任務まであと一週間あるけど、そんな悠長でいいのか?」

 

 ギリスケが食い下がる。

 

 「たしかにそうでござる! 人が襲われる可能性があるなら、今すぐ出立すべきでは!?」

 

 マヒロが立ち上がる。

 

 その焦燥は理解できる。

 だが先生は、意外にも冷静だった。

 

 「いや、まだ駄目だ」

 

 「何故でござる!? 危険は刻一刻と迫っているかもしれぬでござろう!」

 

 「危険なのは賊だけじゃない」

 

 「……? どういう意味でござる?」

 

 先生は黒板の端を指で叩き、低く告げた。

 

 「今、あの周辺は『春生期《スプラ・シーズン》』に入っている」

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