「……まらっぐ?」
聞き慣れない単語に、全員が首を傾げる。
「魔法薬物。略して魔薬《マラッグ》だ。基本的には違法指定されている薬物の総称だな」
先生は淡々と説明する。
「? その魔薬とは、何故そこまで禁じられているのでござるか?」
マヒロが真面目な顔で問いを重ねた。
「端的に言えば、人体への害が甚大だからだ。精神を侵し、魔力を暴走させ、最悪の場合は死に至る」
「……」
教室の空気が一段階重くなる。
前世で言うところの“麻薬”に近いのだろう。依存性があり、肉体や精神を破壊する危険物。そこに“魔”の要素が加わるのだから、厄介さは比べものにならない。
「元々、タリスターには魔物除けの効果がある。それゆえ小さな村や集落に植えられ、魔物の侵入を防ぐ役割を担っていた」
そこまでは知っている。
だが先生は、そこで一拍置いた。
「だが最近、その花に魔薬と同様の成分が含まれていることが判明した」
「ッ!?」
空気が凍る。
「それを嗅ぎつけた連中がいる。タリスターを乱獲し、さらには自生地周辺の村や集落を襲撃する輩まで現れ始めた」
「……そんな。酷い」
ミオが小さく呟く。
俺の脳裏に、ふとリーヴ村の出来事がよぎった。
あの時、リーフさんが捕えた賊と交わしていた会話――何か似たような話題が出ていた気がする。ミオはあの場にいなかったが、俺は確かに耳にした。
「タリスターは各地に広く分布している。騎士団だけでは手が回らん。そこでお前たちには、ここから少し離れたレルト集落へ向かい、タリスターを一つ残らず処分してもらう」
淡々と告げられたその内容に、
「……えっ? ちょっと待てよ、先生!?」
ギリスケが声を荒げた。
「ちっ、うるせーな。なんだ」
「俺たちが処分しに行くってことはさ、賊と鉢合わせる可能性もあるってことだろ?」
「ッ!?」
その指摘に、全員がはっとする。
確かに。
賊が狙っている花を俺たちが処分する。
つまり、その現場を押さえようとする可能性は十分ある。
「……ああ。その通りだ」
あまりにもあっさりと肯定された。
「その通りだ、って……」
「正直に言う。今回の任務は、お前たちには荷が重いかもしれん」
「ッ!? じゃあ何でこの任務なんですか!」
思わず声が強くなる。
「任務を受諾したのは理事長だ。あの人は無駄に顔が広い」
どうやら、この任務はリーフさんの判断らしい。
……本当に、何を考えているんだあの人は。
新入生に、賊と遭遇する可能性のある任務を?
「理事長が受けた以上、俺たちが断ることはできん。お前たちには遂行してもらう」
「そ、そんな……」
ミオが不安げに目を伏せる。無理もない。入学して間もない自分たちには、あまりにも現実味のある危険だ。
「……っていうか、任務まであと一週間あるけど、そんな悠長でいいのか?」
ギリスケが食い下がる。
「たしかにそうでござる! 人が襲われる可能性があるなら、今すぐ出立すべきでは!?」
マヒロが立ち上がる。
その焦燥は理解できる。
だが先生は、意外にも冷静だった。
「いや、まだ駄目だ」
「何故でござる!? 危険は刻一刻と迫っているかもしれぬでござろう!」
「危険なのは賊だけじゃない」
「……? どういう意味でござる?」
先生は黒板の端を指で叩き、低く告げた。
「今、あの周辺は『春生期《スプラ・シーズン》』に入っている」